第83話 ペリドットと純情
遅くなるけど、京極の家(こっち)に戻ると彼から連絡があったのは20時過ぎのこと。
あたしもサークルの飲み会で、20時は過ぎる予定だったのでひとりでも構わないと答えた。
だって、会社からあたしの家まで(すでに持ち主は浅海だけど)車で40分ほどかかるのだ。
昴の部屋までなら半分の20分で行ける。
わざわざ遅くなったのにこっちまで寝るためだけに帰らせるのは偲びないし・・
なのに
「とにかく帰るから」
とだけ言って、素っ気なく電話は切れた。
・・・大丈夫って言ったのに・・・
携帯見て溜息つくあたし。
と、奥のトイレから戻ってきた冴梨があたしに気づいた。
「浅海さん?なんだって?」
「んー・・・遅くなってもこっち帰るって」
「あらら・・・相変わらず心配症ねぇ」
「だよねぇ」
「良かったじゃん」
「なにが?」
「この3日ろくに顔合わせてないって言ってたから」
「・・・そーだけど・・」
「向こうが勝手に帰りたいって言ってんだから待ってるねーっていってあげればいいじゃないの」
「なんか、あたしが帰らせてるみたいじゃない?」
彼の仕事が本当に忙しいことを知ってるし、志堂分家筆頭でもあるからその分、本家がらみの諸事情を抱えていることも知っている。
だから極力彼の負担になりたくないのだ。
そういう女性になりたい。
昴が、安心して仕事出来る大人の女になりたい。
みゆ姉を見ていたら尚更そう思う。
自分の仕事もきちんと持っていて、社会人としても女性としても凄く魅力的な大人の女性。
志堂さんの自慢の奥様。
・・・あたしもいつかなれるだろうか?
「心配されるうちが花って言うよー?浅海さんが桜の世話焼きたがるのは今に始まったことじゃないでしょ。今さら妙な見栄張ってどーすんの」
冴梨の鋭い突っ込みにあたしはうーむ・・・と唸ってしまった。
★★★★★★★★★★★★★
22時半に家について、お風呂上がってソファでそのまま・・・のはずなのに・・・
明らかにもっと広い場所で眠っている自分。
なんで・・・?
一瞬ソファから落っこちて、リビングの床の上かとも思ったがそれにしてはあまりに寝心地が良すぎる。
重たい瞼を押し開けてゆっくり寝がえりを打つと、なにかにぶつかった。
・・・え・・・?
慌てて目を開けると、熟睡中の昴の顔が飛び込んできた。
・・いつのまに・・?
おかえりを言った記憶さえない・・・
時計を見ようと手を伸ばすも、携帯が・・・ない・・・
そりゃそうか、ここ昴の書斎だし。
どうやらあたしは、自分の部屋ではなく、彼によってこっちに運ばれたらしい。
起こしてくれればいいのに・・
そしたらちょっとでも話が出来たのに。
カーテンの向こうはぼんやり明るくなっている。
たぶん・・・早朝・・・
昴何時に帰って来たんだろう?
今日も間違いなく残業だろうなぁ・・
上掛けのなかでもぞもぞと丸くなる。
起きるのがもったいない。
どうせもう少ししたら彼は起きて仕事に行っちゃうわけだし、こうしてる時くらいくっついててもいいよね?
そんな風に理由を付けて彼の方に身を寄せたら、無意識だろうか?抱きしめられた。
温かい手が頬を撫でて耳の後ろをなぞった後いつもみたいに、髪を梳かれてどきっとする。
ね・・・寝てるよね・・?
もしも起きてるとしたらめちゃくちゃ恥ずかしいんですけど・・
ドキドキ跳ねる心臓押さえたら、耳元で声がした。
「・・・なんじ・・?」
「・・・・お・・・起きたの?」
彼が腕を伸ばして、サイドボードの時計を持ち上げた。
シルバーメタリックの目覚まし時計。
薄暗い部屋でも、蛍光塗料の塗られた針が綺麗に時刻を指し示す。
「んー・・・・・まだ6時・・」
呟いて、時計を元に戻した彼があたしを強く抱きしめた。
「・・・ちょ・・・し・・・仕事は?」
「んー・・・・半休取った」
「え?」
「最近忙しかったからなぁ・・・・午後の会議は外せないけどそれまでフリーだから、大学送って行ってやるよ」
「・・・じゃあ、ゆっくり出来るってこと?」
「そーだな。お前昼から大学だろ?」
「う・・うん・・・13時からの講義」
「どっかでランチ食いに行くかー・・」
「ほんとに?」
「ああ、どっか行きたい店ないの?」
「探す」
クラブハウスサンドが有名なカフェや、オープンテラスのお店。
焼き立てパンとパスタランチも素敵だし・・・
和食のおばんさいのお店なんかも捨てがたい。
そう思ったら、こうしてベッドでゴロゴロしてるのが勿体ない気がしてきた。
せっかく昴が時間あるっていうのに・・・・
「起きよっか」
そう言って羽根布団から抜け出すと、すかさず腕を掴まれた。
「なんで」
「だって、折角昴半日家にいるのに」
「折角家にいるんだから、もーちょっとのんびりするのも悪くないだろ」
「えー・・でも・・」
有無を言わさずベッドの中に引き戻される。
動けないように抱え込まれてしまって、あたしは慌てる。
「時間はまだまだあるよ」
そんな言葉と共に、キスが降ってきた。
瞼に、頬に、耳たぶに、羽根みたいに触れるだけのキスをした後彼の唇が首筋をなぞる。
髪の撫でた指が肩に触れて、背中をシーツに縫いつけられた。
「ちょ・・・本気?」
尋ねたらさも当然みたいな
「もちろん」
という返事が返ってきた。
額をくっつけたままで彼が呟く。
「ここ数日ろくに抱きしめてすらいないんですけどね」
「そうですね・・」
すれ違いの毎日を思い出していたら、甘いキスが落ちてきた。
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