さくらとしおり

@kajiwara

多分、それは

 最近、私のさくらの様子が気がかりで仕方がない。私と話していても上の空っていうか、なんとなく話してるのに聞こえてない、みたいな様子が多くて。きちんとどうしたのか聞こうとしても、変にとぼけられるというか、へ? みたいな感じで。


 だから本当は悪い事、良くない行動だとは分かってはいるんだけど、私は授業が終わった後にこっそりと、さくらの行く先を追ってみる事にした。探偵じゃないけど尾行だ。もしも変な奴に、不良だとかそんなのとあらぬ繋がりなんてしてたら親友の私がどうにか止めてあげなきゃいけない。身勝手かもだけど、そんな正義感が燃えている。決行するのは今日だ。


「さーくら」


 授業が終わってから隣に座るさくらに声を掛けてみる。やっぱりそそくさと鞄に筆記用具とかしまってるのを見るとそんなに急ぐほどの用事があるみたい。前は気軽に食べ歩きしたりしてたのにな。私よりも気になる事、あるんだ。


「ねぇ、一緒に最近出来たお店……」

「あ、ごめんねしおり……。ちょっと急用があるの」

「そう、そっか……。わかった」


 さくらは私に謝りながら席を立って、早足で教室から去っていった。むむむ……本当その反応、気になりすぎる。私はさくらに悟られない様に、静かに椅子から立ち上がって、ドアの付近できょろきょろとさくらの姿を探す。あ、背中が見えた。素早く、だけど抜き足差し足でその背中を追いかけていく。廊下を歩いて、二階の階段を上って、一体どこに行くんだろう、まさか(私の勝手な想像の範疇だけど)不良のたまり場な屋上とかじゃないよね!? か、男子とあらぬ交際をするために誰もいない教室に……と良くない想像ばかりが膨らんできてつい足音を立てて追ってしまう、と……。


「……え?」


 私は思いもよらぬ場所にたどり着いて、つい戸惑いが口から出てしまう。図書室……? さくら、図書室になんか用事があるんだ。私の中でさくらはスポーツ好きで成績万能だしで友達多いけど、本読むって印象はあんまりなかったからちょっと意外だった。そっと入口に入り様子をうかがう。そんなに人はいないみたいだけど……あ、いた。さくらだ。


 何だか難しそうな、悩んでいるような顔で本棚から本を抜いては、開いて読んでいる。そうしてある程度読んでいるのか、パラパラと捲っては戻す。その時の顔がどことなく憂いているみたいで私はつい心配になってしまう。だけどこう、後ろから追ってきた手前どうも声を掛けづらいし……。すると、さくらの近くに誰かが……あ、牧村君だ。成績良いしなんでもそつなくこなすし背も高いから、結構女子から人気がある。牧村君はさくらに近寄ると何か話しかけてる。あ……さくらの顔が明るい。何でだろ、男子とも普通に仲良く話せる子だけど、でも何か……そういうのとも違う気がする。


 凄くワクワクしてるというか、話していて楽しい! ってのが傍から見ていても伝わってくる。なんか……悔しいな。私と話している時でもそういう顔は見せてくれるけど、けど牧村君とはどんな事を話しているかはここからは聞こえないけど、バーッと口から言葉が出て止まらない、って感じ。気になる、気になってしまい、自然に足が図書室の中へと入ってしまう。


 あ……でもダメかも。何か、見ちゃいけないもの見てしまった気がして。周り右をしてそのまま帰ろうかなとした瞬間、変にゴツッ! っと頭がドアに当たって、私はつい驚いてその場にしりもちをついてしまった。


「あたっ!」


 割と派手に、すっ転んだ音がして声を上げてしまった。


「しおりっ!?」


 そのまま呆けている私の元に、驚いたのか急いでさくらが駆けてきた。えっ、誰、何? と後ろから牧村君さえも歩いてきて顔を覗き込んでくる。め、めちゃくちゃ恥ずかしくて私は顔を隠しつつ、さくらに、言う。


「さ、さくら……」

「しおり大丈夫? ていうか、なんでここに」

「付き合……ってるなら」


「付き合ってるなら言ってよ……隠し事しないで」


「え?」

「は?」


 私がそう言いながら、恐る恐る隠している手を解いて上を見ると、さくらも、牧村君も呆気に取られている様な、よく言う言い回しで、鳩が豆鉄砲を食らってるような顔をしているから私もすっかり混乱している。


「さくら、もしかして凄い勘違いしてない?」

「えっ、違うの……?」



 中庭、私とさくらと牧村君で諸々の事情を、というより私の一方的な勘違いから来た誤解を晴らすために移動して中庭のベンチに座る。気恥ずかしいというか、さくらに嫌われてしまう怖さもあるけど、でもさくらは嘘とかごまかしみたいなのが嫌いな子だから、覚悟して全部話す。さくらが最近どこかにサラッと行っちゃって不安だから追いかけた事、そこで牧村君と話してて、ふたりが付き合ってると思い込んだ事。それを一通り聞いた瞬間、さくらより先に牧村君が堪えきれないように大きな声で笑いだしてムッとする。そうして。


「悪い朝倉、めっちゃ面白い」


  牧村君の発言に私は恥ずかしくなって顔を覆いたくなる。要はこういう話だったらしい。さくらは最近、小説を読むのにハマっていてそのおススメをいつも牧村君に尋ねていた様だ。それでつい、夢中になってどんな用事よりも今図書室に放課後駆けこんでしまってたようだ。それならそれで、私も誘ってほしかったけど。


「ごめんねしおり、いじわるするつもりはなかったんだ。だけど……」


 さくらが何か言い淀んで牧村君に視線を送ると、牧村君の方から。


「三雲、何となく気恥ずかしいんだってさ。本読んだりするのが皆に知られるの」

「何でさ」

「何でだよ三雲」


 私と牧村君がそう聞くと、逆にさくらは恥ずかしそうに、照れ臭そうに言う。


「もう二人とも……! その、私皆からスポーツ得意だったり好きって思われる感じが強いから、そういうの大事にしたいかなって」

「皆別にそんなに気にしないと思うけど」

「そうなんだってさ、三雲」

「牧村はどっちの味方なの!?」


 悪い悪い、と牧村君はまた大きな声で笑いつつ、あ、俺塾あるから先帰るわ。またお勧め聞きたかったから図書室来なよ、と言い残してベンチから立ち上がって去っていった。残された私とさくらはそれとなくなんか会話しようとしたけど、私もさくらも上手く言葉が浮かばず、つい、顔を見合わせはくすっと笑ってしまう。


 笑いつつ、私はさくらの顔を見て、やっぱり伝えたかった言葉を言う。


「さくら、もう良いんだけどさ、図書室行くくらいは私に教えてほしかったんだ。本当の事言うと」

「あっ、うん……。そうだよね。ごめんね、しおり」


 私は視線をそっと落として、さくらが図書室から借りてきている数冊の本をちらりと覗き見た。小説……って言ってたけど、そういう割にタイトルは何か、料理……? ちらりと見ただけだけど、色んな料理の本を借りてるみたいだ。あぁ、やっぱりさくら、牧村君の事が好きなのかな。何か、色々と辛いけれど。


「しおり、なんか色々ごめんね。今日は付き合うからさ、食べ歩き」

「えっ、いいの」

「いいよいいよ。あ、でも驕るのは無しだからね。そこまで悪い事してないから」

「って、私そこまでわがままじゃないよ!」


 私達は笑いあいながらベンチから立ち上がる。さくらが先に行くね! と言いながら借りた本を鞄に詰め込んでいく、となんか一番下に置かれてる本を持ち忘れてる。もう……と思ってると、そこになんか栞が挟まっていて、私はそれとなく開いてしまう。挟んである箇所……。


「しおりー! 何してんの」

「あ、あぁごめん! 今行く!」


 私はさくらに呼ばれて慌ててその本を閉じる。読んだ。読んでしまったけど、この事は伏せておこう。言えないよ、その栞のページ、眼鏡で三つ編みしてる女の子、って私に似てる子だったなんて。


〈了〉 

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