第二十章 星空

「大丈夫かい・・・。大島さん・・・大島さん、しっかりするんだ・・・」

水野の声で、ようやく恵里子は目蓋を開けた。


男の顔が霞んでよく見えない。

貴男は恵里子の頬を軽くたたいた。


「大島さん・・・気がついたかい・・・?」

水野の顔がやっとはっきり見えた。


「水・・・野さん。私・・・いったい・・・?」

貴男はベンチに寝ていた恵里子を抱きかかえるように起こし座らせると、自分も隣に座って話しだした。  


パトカーの赤いライトがゆっくり回っている。

男が手錠をはめられ乗せられていく。


「僕が公園に着いた時、君が大声で叫んでいた。急いで駆けつけて、あの男にタックルしたんだ。そのまま格闘している間に運良く巡回中のパトカーが来てくれて・・・」


男の説明が終わらない内に、恵里子の目から涙があふれてきている。

ようやく正気を取り戻したのだが、今頃恐怖が襲ってきたのだ。


「大島さん・・・もう、大丈夫だよ・・・」


貴男が優しく肩に手をかけると、ぶつかるように恵里子は男の胸に飛び込んだ。

堪えていたものが一気に噴き出した。


貴男は何も言わず愛しい天使の細い肩を抱いていた。

警察の人が軽く質問をし、それに丁寧に答える。


嗚咽に揺れる背中を優しく撫でている。

やがてパトカーが去り、野次馬も消え、再び静寂が公園に戻ってきていた。


夜空はさっきと変わらず、満天の星をたたえていた。

貴男は空を見上げ、大きくため息をついた。


白い息が一瞬広がり、女の髪に溶け込んでいく。

貴男は恵里子の身体の温もりを幸せそうに受けとめていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る