第十七章 打ち合わせテーブル

いつになく冷たい恵里子であった。

貴男が挨拶しても答えてもくれない。


通路ですれ違って目が合っても、横を向いて通り過ぎて行く。

もしかして昨夜つけているのを見られたかと貴男は思い、憂うつな気持ちを抱いて一日を過ごしていた。 


「大島さん、昨日はすまなかった。今日は、もういいから・・・」

打ち合わせテーブルですまなそうに遠藤がそう言うと、ちょうど貴男もそこにいた。


「いいえ、今週提出ですよね・・・。大丈夫です、手伝わせて下さい。今度のコンペ(競技設計の事)、社運がかかっているんでしょ?」

水野を無視するように、恵里子は言った。


「まー、そうなんだけど・・・。いいのかい、遅くなっちゃうよ・・・?」

遠藤が申し訳なさそうに言った。


「本当にいいんです。それに遠藤さんなら遅くても8時には終わってくれるし。もし、怪しい人につけられても・・・。何だか・・大丈夫なような気がするんです」

チラッと、水野の方を見て恵里子は言った。


「そう言ってくれると助かるけど・・・。じゃ、もし今日変な奴が現れたら絶対俺に言ってくれよ」

遠藤が心配そうに言うと、恵里子は笑いをかみ殺すように言った。


「大丈夫・・・だと思います。たぶん、その人・・・そんなに度胸のある人じゃないと思うし、悪い人じゃないと思います」


そう言うと、自分のブースに向かって背筋を伸ばして大股に歩いて行った。

きょとんと見送る遠藤は水野に向かって尋ねた。


「今・・・変な事言わなかったか、大島さん・・・?」

水野は顔が赤くなったのを見破られないように、そっぽを向いて言った。


「えっ・・・?聞いてなかったから、よく・・わかりません」


やがてオフィスの喧騒が辺りを包み、そんな会話も掻き消していった。

今週は誰もが忙しいらしく、慌ただしく活気のある日が過ぎていた。


 

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