第十三章 ライバル
ワープロの手を止め、パソコン越しに見える水野のブースを見て里美は小さくため息をついた。
この頃、姉のように慕っている恵里子が元気になってうれしいのだが、何か急に水野と親しくなったような気がする。
高校時代からモテた里美であったが、これといった恋人もいなく恋らしい恋もあまりなかった。
いつも廻りに男達はいるのだが、互いに牽制しあっている間に別の女の子と付き合っていく、その繰り返しであった。
まわりからは派手な女と見られて、中々真面目に愛をぶつけてくる男性に出くわさない。
かといって自分が好きなタイプは割と地味な男が多く、向こうから声などかけてこないのであった。
自分から打ち明けようとするのだが何か踏み込めないものがあって、いつもすれ違いに終わってしまった。
水野にしても、やっと好きになりそうだったのに恵里子と何やら親しそうに話しているのを見ると、急に立ち止まり遠慮してしまうのだ。
しかし、そんな里美をやはり遠くから見つめている男が二人いた。
もちろん里美は会社の中では恵里子と供にダントツに人気があるのだが、その中でもこの二人はお互いライバルのように闘志を燃やしていた。
デザイン部の山下と設備部の橋本であった。
二人は同期で、入社三年目になる。
山下は遠藤と同じチームで何かと目にかけられている。
少し気の短いところはあるが建築に対しては情熱的で、時折遠藤を感心させるスケッチを描いたりする。
橋本はその逆にクールなところがあるが、言われた期限はきっちり守り堅実な仕事をこなしていくのであった。
上辺は少しキザなのだが、最新のファッシヨンに敏感でデザイン部に来た方が良いのではと思われるくらいであった。
二人とも本気で里美に惚れており、密かに二人でファンクラブを作っていた。
会員は二人限定で、期限はどちらかが里美と結婚するまでという事である。
今時そんな奴いねえ・・・と言うなかれ。
せめて物語の中でも、そんなホットな奴らがいてもいいではないか。
作者は期待する。
今の若者は余りにも情報が多過ぎ、テレビや映画で理想の人生を見せつけられ重い足かせを抱かされているような気がする。
若い時こそ、少しバカゲタ純情に酔いしれるのも人生において、そんなに損な事ではないと思うのだが・・・。
とにかく二人は抜け駆けはなしで、お互い正々堂々と天使を射止める事を誓い合うのだった。
二人以外の男に渡す事は絶対許されていなかった。
まして不倫で変なオッサンに汚されることなどはもっての他で、遠藤でさえ山下のするどいチェックが入っていた。
「鈴木さん、ちょっとワープロいいかな?」
と、目の前で言おうものなら。
「僕がやりますよ。そのかわり、この図面のチェックお願いします」
と、さっさと遠藤を追いやり里美の隣のパソコンの前に座るのだった。
周りはこの二人のライバルをおもしろがって見ているのだが、当の本人はこのことに気づいてなく、今日も小さなため息のシャボン玉をオフィスに浮かべていた。
今も恵里子がすれ違いざま、水野とのあいさつで見つめ合う視線がワンテンポ長かった気がして落ち着かないのであった。
窓に目をやると高層ビルに囲まれた都会の空は狭く、それでも深いセルリアンブルーの色をたたえて広がっていた。
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