第十二章 ときめき

遠藤が部長にかけあってくれてから、恵里子は毎日5時には退社できるようになった。


あれから帰り道をつけてくる影もなく、夢にうなされる事もない平穏な日々が続いていた。

逆に恵里子は退社時間が待ち遠しく思えるようになっていた。


帰りの電車で偶然会う水野と交わされる会話に、久しぶりに少女に戻ったようなときめきを感じるのだ。

朴訥で余り喋らない水野であったが意外にスポーツマンで、高校の頃インターハイに出たことや昼休みにプールで泳いでいる事を聞いて、改めてこの背の高い男性を見直す恵里子であった。


会話は恵里子の方がリードした。

仕事の話や映画の内容が主であったが、とりとめのない話を澄んだ眼差しでじっと聞いてくれる水野に、次第に魅かれていく自分を感じていた。


髪をとかしながら今日は何を着て行こうかと浮き立つ気持に、鏡はありのままに恵里子の笑顔を映していた。

頬はあくまで白く瑞々しいのだが、ほんのりバラ色に染まり大きな瞳が希望にキラキラ輝いている。


ブラシのすべりも滑らかに、少しブラウンがかった艶のある髪をとかしていく。

マンションを出て駅までの道を歩いて行く。


今日はカットが大胆に入ったモスグリーンのワンピースを着た。

ジャケットはオフホワイトでコートは薄いグレーの柔らかい生地にした。


ヒールは低めのカーマインのエナメル。

靴音も高くアスファルトの道を通り過ぎて行く。


公園の緑を眺めながら最近自分がこの道を満更嫌いでなくなっている事に気づいた。

冬空はどこまでも高く、木々の枯れ枝がそれをジグゾーパズルのように分割している。


恵里子は白い姿をあらわすため息を、うれしそうにはいた。

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