「彼女たち」のその後(3)


 竹乃は俺の期待通り、もじもじさを更に増しながらも、少しずつ、3姉妹で話し合った「一清対策」について語り始めた。



「あたし、松音姉さんから、あたしが付き合ってる男性のこと、知ってるのよ? って言われて……同じことを梅香も言われて、2人とも何も言い返せなくて。でも、黙ってるってことは、認めたのと同じことよねって、念を押されて。そしたら梅香が、『バレちゃったらしょうがないかあ。でも、いつかはバレるんじゃないかと思ってたんだ。それでもさ、桐原さんの報告がまとまるまでは内緒にしておこうって、カズに言われて……』って、一清さんのこと『カズ』って呼んでたことも含めて、潔く認めちゃったんです。それであたしも、認めざるを得なくなって……。


 梅香は、一清さんと飲み屋で意気投合したみたいなことを言ってたんですけど。あたしの方は、その、一清さんの方から、松音姉さんの妹と知った上でアプローチされて。松音は時々、理解出来ないような行動を取ることがある。考えてることもいまいち読めないし、そういうところが魅力でもあるんだけど、実際付き合っていくのは疲れるんだ、みたいな話をして。それで、あたしの『わかり易さ』に惹かれるとかなんとか、そんな風に言われて……。


 あたしも、その、姉さんに悪いとは思ったんだけど、でもそんな風に言ってくれる男の人ってほとんどいなかったから、ついついその気になっちゃって……それで、2人で野見山家の後を継ごうとか口説かれて。そっちの方も、いま思えば、上手く乗せられてたんだなあって思うんですけど。その時は何か、夢中になっちゃって……全然気づかなかったんです、一清さんの『企み』とかは」 



 竹乃と一清の「なれそめ」については、あえて確認しなくても良かったのだが、珍しく竹乃が「自分から話をしている」ので、そのまま話を続けさせていた。恐らく、一清対策を説明する上で、自分がなぜ姉の恋人である一清と付き合うようになったかを、釈明しておきたかったのだろう。一清は竹乃の「思い込みの激しさ」を利用し、跡継ぎのことも合わせて、上手く言い含めて「モノにした」ということか。俺は一清のプレイボーイさ加減に今更のように呆れながら、竹乃の話の「聞き役」に徹していた。



「それで、松音姉さんから一清さんの企みを聞かされて、そういうことだったんだあ……って、初めて気付かされて。自分がほんとに情けなかったんですけど、出来ることなら、やっぱり一清さんを『懲らしめてやりたい』って気持ちは大きくて。梅香はああいう性格ですから、姉さんの提案に大乗り気で、『コテンパンにしちゃおうよ、二度とこんなことさせないためにもさ!』って盛り上がっちゃって……。


 それから、これも松音姉さんから聞かされてビックリしたんですけど、一清さんは自分のお店で、違法な薬物みたいなのを販売してるんだと。もちろん表立ってそんな商売をしてるわけじゃなくて、店の商品をネット通販してる、その販売網を使ってるんだとか。あたしはそんなこと全然気づかなくて、一清さんは商売上手なんだなあとか思ってたんですけど、姉さんは前から何か怪しいと思ってたみたいで。でも、具体的に何をどうやってるのかまではわからなかったんだけど、それを桐原さんが調べてくれたんだって。


 一清さんは野見山家の跡継ぎになるにあたって、自分のお店を譲渡することにしてたんだけど、どうやら順調に進んでいない。それはきっと、『裏の販売網』が関係してるんじゃないかって。その辺りを上手く突っつけば、一清さんをあたしたちの言いなりにすることも出来る。松音姉さんと梅香は、あたしたち3人の前で一清さんを謝罪させた上で、当家にも謝りにいかせるつもりだったらしいけど。あたしそこで、ほんの思い付きで。『どうせなら、お金も貰っちゃおうよ』って言っちゃったんです。慰謝料みたいなものだし、請求してもおかしくないよね、って……。


 そしたら、姉さんも梅香もまた盛り上がっちゃって。『そうよ、そうしましょう!』『竹ねえ、いいこと言う!』とか言って。それで、松音姉さんが思いついたんです。どうせなら、これからずっとあたしたちに、お金が入るようにしない? って。一清さんの『販売網』を使って……」


 ……なるほど、一清の「裏の販売網」を狙うことにしたのは、言い出しっぺとまではいかないが、竹乃の発言がきっかけだったってことか。それで、一清との馴れ初めから話して、自分がいかに一清のことを腹立たしく思っているか、俺に説明しておきたかったんだな……。



「そこからは、頭のいい松音姉さんが、色々と考えて。お店を譲渡した後に、一清さんに入るはずの『裏の販売網』の売上げの一部を、松音姉さんの口座に振り込ませようって。そうすれば、その販売網が続く限り、あたちたしにずっとお金が入ることになる。梅香は『さすが松ねえ、あったまいい!』ってすぐに賛成したけど、あたしはちょっと、そういうのに関わるのは辞めた方がいいんじゃないかって思ったんですけど。そういうのって、『怖い人』とかも関係してそうだし……。


 でも、姉さんも梅香も、自分達が販売に関わるわけじゃないし、売り上げをもらうだけ、それも何%かだけだから、大丈夫だよって言って、押し切られて。3人で一清さんを呼び出して、今までの企みを認めさせて、あたしたちの前で土下座させた上で。お店を譲渡した後に入る売上げを、松音姉さんの口座に指定するように承諾させたんです。そうしないと、薬物販売のこととか警察に通報するわよって、脅すようにして……。


 そういう時は、松音姉さん、ちょっと怖いくらいに冷静に言うんです。あたしたちでも、少しビビっちゃうくらい。田舎を出て来る前に、当家と交渉してた時も、こんな風だったなあって思いだしたりして。一清さんも、3人と浮気してたこともあって、何も言い返せなくて。そういうことで、話がまとまったと思ってたんですけど……」



 ……そこで一清が、姿を消したわけか。3姉妹に追い詰められ、口座のことを承諾したものの、口座を変更することが知られて、取引相手から不審に思われたのかもしれないな。そして、店を譲渡する相手ではなく、「薬物の取引相手」が、その口座の持主に「直接交渉」しに来た……。俺は一清の行方不明と、松音のマンションでの不在を、そんな風に推理していた。


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