第4話 王の記憶 -無知の王子-

 眩い光が暫くして収まると、建物にいた人間は次々と意識を覚醒させて、目を覚ます。

 そうして辺りを見回せば、黄金で装飾され壁や天井、真紅のカーペットが長く視界の奥へと伸び、絢爛な骨董品が所々に飾られた。所謂、宮殿のような場所にいることに多くの人間は気が付き、再度騒乱とする。


 しかしその内の一人で、目を覚ますアロガンは大きく息を吸って冷静に物を見ていた。

 その理由は、まさにこの光景こそがアロガンの見慣れた景色だからだ。

 正しく王の間に相応しい、この煌びやかさは、現代文明の閉鎖的な空間にいた時より、アロガンは大きな解放感で溢れていた。


「静かにせぃ!」


 そう騒めく中、すぐに威厳のある声が宮殿内に響き、一斉に静まり返る。


「よし。よくぞ参った。異界から来たりし転移者よ。此処は、デクトス王国。

 突然の転移に混乱する者もいるだろう。しかしここは一つ落ち着いて聞いてほしい。

 其方らは異界の戦士として召喚されたものである。

 召喚した理由は……今、我らの世界は魔王という悪しき魔族に侵攻され始めているのだ。もう既に魔族の侵攻によって多くの命が失われておる。


 そこで我々は其方らを呼んだ。勝手な召喚に、勝手な申し込みを済まない……、どうか其方らの力で我々の世界を救ってほしい……!」


 その声の主は、国の王であった。

 王は威厳ある声から哀しげな声と表情を使い分け、多くの人間の同情を煽る。

 ただここは東京ではなく、完全なる異世界。世界が魔王によって侵攻されることなどどうでも良く、此処はどこなのだと混乱する者もいたが、国王の演技によって同情しようとする者もいた。


 そして国王は続ける。


「だが、其方らはまだ力無き者。そんな体ですぐに戦場へ出ろとは言わない。

 我々には時間が惜しいが、すぐさまここで訓練をしてもらい、慣れてきたら実戦をして、戦場へと赴いてもらう。

 その為と言っては難だが……恐らく其方らは転移する途中でさまざまな力を得た事であろう。

 全員、ステータスと唱えるのだ!」


 そう国王の言われる通り、各々はステータスと唱えれば、アロガンの目の前には自身の身体能力が数値化された青い窓が空中に現れた。


「ほう……これは所謂、魔力量審査か。形式は違うが、良く似た魔法だな……」


 それを見て多くの人間は驚いたり、喜ぶ表情を見せるが、アロガンは一人。また冷静に分析する。

 魔力量審査。それは、アロガンが元いた世界にて、今回のステータスのようなものとして呼称されていたもので、ここまで細かい身体能力は分からないが、個人が持つ総合魔力量で、さまざまなの進化の予兆をみる魔法である。


 そして今回のステータスでアロガンに表示されたものは、日本語と呼ぶ言語で表示されていた。

 しかし、アロガンには日本語が分からずに暫く睨めっこしていると、それを助けるかのように直ぐに異世界の言語へ変わる。

 そうしてそこに表示されていたものとは。


──────────────────

名前:アロガン・グリード

Lv:1


攻撃力:8

防御力:7

魔法力:9

敏捷力:8


スキル:

・王の記憶[Lv1]

 別世界の王の記憶が引き継がれたスキル。置かれた状況と発動者の発言が、過去の記憶と一致した時に自動発動。

 現在のステータスが当時の物へと昇華し、如何なる苦難でも打破を可能とさせる。

──────────────────


「王の記憶とな。なんと非常に面白い技能だ……これは今すぐ試す価値があるな……」


「ふむ。では、皆の者。自身のステータスは確認出来ただろうか。ならば、すぐに専用の装備に着替えてもらい、訓練を始めよう」


 そう国王が全ての人間を見て、やることが終わったと思えば、訓練を開始することを全員に伝える。

 しかし、ここで一緒に転移された女の教師が立ち上がり、声を上げる。


「国王様! 一つお願い事がある……」


 と、そこでアロガンも立ち上がり、女教師の言葉を遮る。


「教師よ。貴様が口を開く必要はない」


「え、ちょ、アロガン君!? 何をしているの? 座りなさい!」


 そしてアロガンは教師を無視して、勢いよく国王を指差して叫ぶ。


「デクトス王よ!! 戯言はもう終わりか?」


「んなっ!? ゴホン……名をアロガンと申すか。戯言とは何の事を言っているのだ?」


「転移、召喚、戦士? 侵攻、魔族? 先程から何を言っているのか。我にはさっぱり伝わらんかったわ。

 全く、誰のせいで多くの民の命が消えているのか、自分で話していて自覚しないとはなんと愚かな国王なのだ!?」


 王の記憶。アロガンはこれがどのようなスキルなのか。現在とある過去の記憶を思い返しながら国王に責め立てる。


「貴様……私を愚弄するか! 魔族は強大で残酷……歳もいかない子供が何を言う」


「魔族など、デクトス王一人で十分だろう!? 何を人任せに兵士を作って、多くの命が失われているだ? 戦場に送って、結果しに至らしめているのはお前だろう!!

 馬鹿を吠えるもいい加減にしろ……」


「馬鹿はどっちだ子供がぁ! 魔族の恐ろしさを知らないからそう言えるのだ。私一人でどうにかなる訳が無いだろう!」


 その記憶とは、アロガンが今よりさらに幼少期の時の記憶。王となる前の王子だった時の記憶で、これらはアロガンがその歳で本当に当時の国王に叫んだ言葉である。


「知らん。全く持って知らぬ! 貴様らの恐る魔族など聞いたことも見たことも無いわ! そして知る気もない。

 我が言っているのは、王が一人で魔族に突っ込んで死ねという訳ではない!

 民の命を守りたいのなら、その命を背負う王として威厳を見せろと言っているのだ!


 魔王に宣戦布告して、一人で立ち向かうその無謀さも、一国の王には必要な気質。

 いつまでもいつまでも、玉座で指を咥えているだけの塵が民の命や魔族の恐ろしさを語るなぁ!!」


 国王はアロガンの発言に少し押されるような表情を見せると、歯を思いっきり食いしばって、顔を真っ赤にして怒りを必死に抑える。


「糞餓鬼が……! 私は温厚で優しさに溢れる国王だと知られておる……もう一度私を愚弄して見せよ。今すぐ貴様を処刑してやる」


「ほう。これだけで怒るか……全く相手が餓鬼なら聞く耳も持たないとはな……子供の話も為になることはあるぞ?

 貴様は、子供の話を全て夢物語として聞き流してきたのだろう。だからいざ言われた時に耐えられない。

 全く、貴様は王失格だな。今すぐ辞めてしまえ。その玉座は我が貰おう。そして意味ある座にして見せよう。


 処刑するならやるが良い。温厚で優しき王が怒りで返り血に染まる姿になることを見届けてやろう……」


「兵士共!! この小鬼を処刑せよ! まさか転移者にこの魔族が紛れているとは失望ものよ! 今この場で殺せえぇ!」


 ついにアロガンの言葉に耐えられなくなった国王は指を指して餓鬼ではなく、アロガンを小鬼と呼んで兵士に命令を下す。

 そうすれば周りの兵士は一斉に国王を馬鹿にされた怒りで狂う表情で、剣をアロガンに向けて振り下ろす。


 しかし、ここでアロガン体が光り、スキル、王の記憶が発動する。

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