第3話 若き友人

 アロガンは自己紹介を終えて席に着くと、その後すぐに放課後で、席に着いていた多くの者は帰る準備を始めていた。

 そんなところでアロガンは机に頬杖を突きながらふと窓へ視線を向ければ、外の景色に目を見開き声を出さずに酷く驚愕する。


 外には殆どの建物が四角い長方形の箱のようで、今アロガンがいる建物よりも遥かに高い物が幾つもそびえたっていることに気がつく。建物の外観はほぼ一つに統一され、文明の発展が著しいことに驚きを隠さないでいた。


 そんな光景に居ても立ってもいられなかったアロガンは席を勢い良く立ち上がり、叫ぶ。


「なんだじゃありゃあ! 他の世界はこんな光景が広がっているのか……しかも地平線の奥まで全てが建物で埋め尽くされておる……」


 その叫び声に部屋から出ようとしていた者は、はっとアロガンの方へ首を向けるが、殆どの者は興味なさそうに自分の方へ戻る。

 ただその中で、少なからずアロガンに話しかけようとしていた男もいた。

 髪はサラサラとした短い金髪で、黄色い瞳を持った爽やかな男であった。


「あーそういや遠い島国育ちって言ってたもんね。都会にそんなに驚いた?」


「当たり前だろ……! ここは本当に別世界なのだな……」


「え、別世界? なんのこと?」


 男がアロガンの発言を聞いて少し引いた表情で質問すると、アロガンは我に帰り一つ咳払いをして誤魔化す。


「ゴホン……少し夢を見ていたようだ。だが驚いたのは本当だ。我……俺が住んでいた島にはこんな景色はどこにも無かったのでな。

 トカイ……というものは恐ろしいな。どうやったらここまで歪な世界を作れるのだろうか。

 素晴らしくもあり、歪でもある。ニホンのトップに立つ者は、それはそれは良い王なのだろうな」


「王って大袈裟な。アロガンってホントに遠い島国に住んでたんだね。

 此処、東京では総理大臣って人と、天皇陛下って人が国を収めてるんだ。まぁ、僕たちはまだ子供だから、覚えなくても良いことだけど」


 男の話を聞いてアロガンは王が二人もいれば、こうも国は変わるのだなととりあえず理解する。

 が、男の方を振り向いて先程から感じていた疑問を投げる。


「そうか……ところでさっきからお前は誰だ?」


「あーごめん。僕はこの学年の学級委員長をやってる結城ユウキ 一輝イツキ。これからよろしくね」


「ユウキか。よろしくな」


 アロガンとユウキが自己紹介を終えた所で、突然ユウキの背後から勢いよく肩を組む元気の良い男がやってきた。

 髪は赤くオールバックで纏め、形相も険しい男であった。


「結城! 何してんだこんな所で。お、お前が例の転校生か! 確かにイケメンだなぁ。こりゃ女子共が噂するのも分かるぜぇ」


 男はニヤニヤとした表情を見せながら、アロガンの顔をまじまじと見つめ、さらににっこりと笑う。

 そして聞いてもいないのに自分の名を名乗った。


「俺は、結城の隣のクラス。二年B組のクロガネ 海斗カイトだ! 結城と仲良くなったってんなら、俺とも友達だ! よろしくな!」


「クロガネか。よろしくな」


 そうして次々と連鎖するように新たな人間の声がアロガンの耳に響く。

 次の声はアロガンの隣の席で、机に伏して寝ていた者で、髪は黒髪で目元まで伸びており、表情はあまり良く見えない男であった。


「うるさい鐡。良い天気に日向ぼっこしている人がいるんだからもう少し声を抑えられない? ……って誰君。僕の隣って誰か座ってたっけ……?」


「アロガン・グリードだ」


「まさかの外国人? ふーん。僕は八神ヤガミ レン……。まぁ、君も静かにしてくれるならいいよ……」


 そうヤガミは名を名乗ったところで、またすぐに机に伏して寝てしまった。

 それから更に二人。スタイルの良い茶髪ロングストレートで高身長の切長の目を持つ女と、肉付きの良い低身長で黒髪ショートヘアの女がアロガンの前に現れる。


「結城、そんなところで駄弁って無いで委員会行くわよ」


「あぁ、ごめん一ノ瀬! 今行くよ。あ、彼女は一ノ瀬イチノセ 美月ミツキ。ここの副委員長だ。じゃあ僕はそろそろ行かなくちゃならないからよろしくね!」


 そう高身長のミツキに呼ばれるようにしてユウキはアロガンの元を去っていった。


「委員会か……クラスの長とも言っていた。国の首脳会談みたいなものか?」


 と、委員会とはなんなのかを独り言で考えていると、もう一人の女が話しかけてきた。


「あのー、えーっと……アロガン君だよね。私は、ヒイラギ カナデ。これからよろしくね?」


 あざとく上目遣いでアロガンの名を呼べば、次に満面の笑顔で自己紹介する。

 それはアロガンにとっては、王の前で緊張する子供が、勇気を振り絞ってお願いごとをする光景を思い出し、アロガンはヒイラギに対して自然と笑顔になり、返事をする。


「あぁ、よろしくな!」


 そんなアロガンの笑顔にクロガネは一歩引いた姿勢で驚く。

 そう、ヒイラギの低身長といい、守りたくなる性格といい、上目遣いからの笑顔は、今まで多くの男子の表情を綻びさせた過去があることから、イケメンで凛々しい表情をしたアロガンでさえも落とされてしまうのか。と、クロガネは横で驚く。


「ってマジかよ! 柊の笑顔はアロガンさえも一発で落ちちまったぜ!?」


「や、やめてよぉ……そういうの」


「いや、以前俺に話しかけてきた子供の態度を思い出しただけだ。一瞬その子供の表情とヒイラギの顔を重ねてしまった。すまない」


「こ、子ども……? そうなんだぁ。良かったぁ。鐡君のいう通りで、そういう扱いされるの苦手だったんだよねぇ」


「そうか。お前がいいのならそれで良いのだろう」


 そうして計五人。それ以上の者がアロガンに話しかけてくることは無かった。

 さて、時間は放課後。恐らく奴隷が唯一、自由へと解放される時間なのだろうとアロガンも考えながら席から立ち上がる。


 席から立ち上がるのは良いものの、帰る場所などアロガンには無い。

 しかし、どこに帰れば良いのかと悩んでいると、ふと夕焼けに染まった窓の外にて眩しい発光体が空から降ってくるのが見えた。

 それに最も最初に気づいたのはクロガネだった。


「なんだあれ……?」


 それはただ光るだけではなく、恐らくこの建物以外の人間も全員が気づくであろう眩しさで、大きさは目測でも直径、十メートルを超える球体で、超低速で都心に向かって落下してくるのが見えていた。


 クロガネが最初に気がつくと、次にヒイラギ、次にアロガン、そして今部屋から出ようと帰ろうとしていた全ての人間が窓を見て、目を細めたり、叫んで騒ぎとなる。


「おいおいなんだよアレ!? 隕石か?」


「そういうことか……。これが本当の転生なのだな。異界の神よ」


 そうして、ポケットからスマホを取り出してその光を映像に残す者、唖然とした表情でただ光を見つめる者、本当に隕石だと思って悲鳴を上げる者。

 多くの人間が煩く騒ぐ中、ゆっくりと落下する発光体はついに眩い光を更に強めて爆発する。

 光は完全に建物内の全てを包み込んだ時、アロガンとその他多くの人間は気を失った。

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