第2話 見知らぬ人々

 王の視界はゆっくりと開き、意識もはっきりとさせる。

 ただどこか視線が低く、身の確認のために手のひらを見れば、100の齢を越えて皺くちゃになっていた手の甲が、王の若き時の物となっていた。

 転生すれば新たな生が始まるとは聞いていたが、若返るのも納得出来るが、なにせ初の体験故に王は新鮮味を感じていた。


「ここが別の世か……しかし、なかなか神妙だな。一目で我がいた世界とは違うことが分かるとは……」


 すぐさま辺りを見回せば、そこは赤レンガや石造りの建物が立ち並ぶ街中……ではなく。

 正面には真っ白な木のスライド式ドアに、ドアに付けられた窓ガラスの先には、多くの小さな机と椅子に座る人間がざっと目測で40人を捉える。

 またその座り方も全員同じ方向を向き、同じ服装、まるで騎士の作戦前会議を彷彿とさせた。


「この扉の先で何が行われているのだろう」


 そう王は扉の前で手を顎に添えて考えていると、徐に扉の先から声が掛けられ、同時にに扉が開かれる。


「じゃあ入って」


「あ、あぁ……」


 他人に先導されるなど。これもどれだけ久しぶりか。扉の先へ誘導される王は、まさに今の若き時に、良く街中を案内されたことがある記憶を思い返す。


「では自己紹介をお願いします」


「分かった……。我……いや。俺の名はアロガン・グリード……」


 そう王が自分の名を言われる通りに名乗った瞬間、瞬時に脳内で考えようとしていた内容が勝手に改ざんされ、王もまたその違和感を確かに感じていたが、顔には出さずに改ざんされた記憶を、そのまま自己紹介に乗せる。


「ここではない。遠い島国出身で、友の誘いでこのニホンへやってきた。文明文化もまるで違う此処の生活に正直苦戦している最中だが、よろしく頼む」


 改ざんされた記憶に聞きなれない場所の名前があったが、この時はアロガンは特に気にしなかった。


「アロガン君ね。じゃあ席は……一番後ろの窓際の席ね」


 またアロガンは自分の席へと案内され、その席まで部屋の中を歩く。

 が、その際に部屋に数人かいた女子おなごから静かな黄色い声が上がっていた。

 そんな状況もまた聞きなれていたアロガンは、まだ初対面にも関わらずに自分のカリスマに気づく者がいるとは。と、ほくそ笑む。


 当然、ここの物はアロガンのことは知らず、カリスマなど此処には存在しない。

 では何故黄色い声が上がるのか。それは単純にアロガンの姿と顔立ちが端麗だからである。そんなことだとアロガンはこの先も決して知ることは無い……。


 さてと。アロガンはこれからこの世界を統治するのかと考えるが、正直に非常に悩んでいた。

 それは、既にこの世界は統治されているからであった。


 部屋に案内され、自己紹介を強いられ、先に案内される。この一連の流れだけでアロガンはこれを奴隷の一種ではないかと考える。


 まだこの部屋が何のために使われる物なのか分からず仕舞いだが、一見平和そうに見えるこの空間は、そう全員が感情を強制的に抑えられ、行動までも制限させているのだと推察する。


「神よ、我は本当に此処を統治すれば良いのか。このニホンという国。統治するにはあまりにも過酷。いやその次元を越えている。

 最初に奴隷の詰所にて目を覚まさせるとは。さすが神だな」


 そうしてアロガンはさまざまな考えと想像を持って、最早統治する気すら失せてくるこの世界に頭を抱えるが、それらは全て杞憂であったと知るのはもう少し後の話になるのだった。

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