第14話 放課後

 昨日と同じく、昼休み。俺とシズクは食堂に集まっていた。

 それぞれ食事を食べ終わったところで、シズクが話を切り出した。


「放課後のことなんだけど、さ。今日は休みにしない?」

「異議なし。ちょうど、俺も言おうと思ってたところだ」


 今日は金曜日。明日のダンジョン探索は長時間かかることを見越して、準備と休養に当てようと思っていた。どうやらシズクも同じようだ。


「メインは明日の探索でしょ。長時間、ダンジョンの中に入るとなると色々準備が必要だし」

「そうだよなあ。今日の放課後は、買い物にもいかないとな。シズクは父親のやつを使うのか?」


 家族に探索者がいるなら、必要なものは借りればいい話だしな。


「それで済めば楽だけど、細々としたものは買い足さないとダメっぽい」

「そんなもんか」

「だから、さ」


 そう前置きすると、シズクはいたずらっぽくと口角を上げた。


「放課後、私とデートしない?」






 ダンジョン探索に関わる道具は、ホームセンターや大きめの商業施設など、割と色々なところで購入することができる。


 放課後になって俺とシズクが向かったのは、学校からほど近い駅に併設されている大型商業施設だ。


 探索者向けの店にも、種類がある。初心者を対象とした店や、上級者向けの高級店、広く浅く色々取り揃えている店もあるし、中には武器のみ、防具のみといった専門店もある。


 ここにあるのは、幅広い層を対象にした店だが、どちらかといえば初心者向けの商品の取り扱いが多い。なので、俺もここの店は何回か利用したことがある。


「春の新作、桜味かあ。ね、イツキ。ちょっと寄ってもいい?」


 シズクは入り口近くにある、カフェを見つけるとそう聞いてきた。


「喉乾いたし、ちょうどいい。俺はコーヒーでも飲むもうかな」


 学校から駅前のここまで、自転車でも少し距離があるからな。

 買い物前に、喉を潤すのもありだろう。


 飲み物を注文し、席に着く。

 シズクのやつ、迷うことなく一番大きサイズのを注文したな。片手じゃ持ちにくいサイズだ。


 一口、飲んだところで、スマホをいじっていたシズクがつぶやいた。


「へー、今こんな映画やってるんだ」

「うん? なんか面白そうなのでも、やってんのか?」


 ここには桜木市、唯一の映画館が併設されている。

 ところどころに映画の宣伝ポスターが見える。


「これよ」


 シズクがスマホの画面をこちらに向ける。

 ……なになに、ほーう。A級探索者に密着したドキュメンタリーねえ。


「バラエティでありがちな題材だけど、あえて映画でやる必要あるのか、これ?」

「地上波じゃ、放送できない場面とか含めて撮りたかったんじゃない?」

「なるほどな……あー、買い物のこと考えてもまだ時間あるし、見ていくか?」


 実際の攻略場面を見れば、なにを買えばいいのかの、参考になるかもしれないしな。


「……次の上映は三十分後みたい」

「これを飲んだらちょうどいい時間だな」


 わざわざ、上映時間を調べたんだ。見に行くってことで、いいんだよな?





 映画も終わり、俺とシズクは本来の目的である、探索者用品を扱うショップに向かう。


「映画、見てよかったな」

「まあ、参考にはなったけれど……娯楽としての評価は微妙ね」

「ああ……まあ、探索者には需要があるんじゃないのか? 知らんけど」

「そんなものかしら」


 なんて、映画の感想を言い合っているうちに、目的地に着く。


「そういえば、シズクは何を買いに来たんだ?」

「ああ、それならこれよ」


 店の中を進み、目的の品をシズクは手につかむ。

 そうして、見せられたのは。


「なになに、『デナクナール』……ああ、あれか」


 探索者にとって、ダンジョンの中で隙を晒す行為として一番に挙げられるのが、排泄。つまり、トイレである。


 この『デナクナール』は、どういった原理か知らないが、トイレに行く頻度を一日に一度に下げてくれるようだ。にしても、もう少しマシな商品名はなかったのかよ。


「これ、探索者にとって必需品だろ。家になかったのか?」

「あるには、あるんだけど使用期限が切れてたの。パパはダンジョンのドロップで、これよりいい効果があるアイテム手に入れて、それっきり使ってなかったみたい」


 そんな、アイテムがあるのか。


「すごい需要がありそうなアイテムだな、ソレ」

「実際、買うとなると高いらしいわよ。それこそ、収納系のアイテムと同じか、それ以上するみたい」


 それは、手が出ないな。収納系アイテムの最低ラインが百万円だ。

 たしかに、あると便利だが、必要性は武器、防具、収納系アイテムに劣るし。買うとなると、それこそ長期遠征の多い上位探索者くらいなのか。


 というか、躊躇なく生理現象の話をぶっこんできたな。

 少しは、恥じらいとかないのか?


 ……いや、男女でペア組んで探索者やるなら、そんなこと言ってられんか。もっと先に進めば、それこそ泊りがけのダンジョン探索だってあるわけだし。


 ふと、シズクの顔を見るといつもの気だるげな表情。だが、それが少し赤みがかっている気がした。








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