第13話 成果と予定

 ……そろそろ時間か。

 シズクはちょうど良さげな石に腰をかけて、目を閉じたまま集中している。


 もう二時間になるが、成果はあったのだろうか?

 時折、気分転換なのか場所を移動したりもしていたが、目に見える変化がないので、進捗がどうなっているのかは分からない。


 俺の方は手応えはあったが、まだ時間がかかりそうだ。

 現状、ギフトでの造型作業には慣れが足りていない。

 こういった練習を行うにはダンジョンの中が一番都合がいいので、練習する機会もあまり、なかったしな。


 ギフトはダンジョン外でも使えなくはないが、体内魔力を消費し切ったら、次にダンジョンに入るまで魔力が回復しない。

 そう考えると家の裏のダンジョンは、気軽に使える練習場所として優秀なのかもしれない。


 家の方のダンジョンもそろそろ探索しはじめないとなあ。情報も何もないから躊躇していたが、モンスターを間引いて、溢れないようにしないといけないし。

 練習場所の確保のためにも、一回偵察にいってみるか。


 シズクにも予定はあるし、こうして二人で毎日ダンジョンに入るわけでもない。


 シズクに用事がある時にでも調べてみよう。


「そろそろ時間ね」


 そう言って、シズクは立ち上がると、背伸びをした。


「だな。明日も学校があるわけだし、今日はここらで切り上げよう」

「賛成。で、成果はどうだった?」

「俺の方は微妙だな。ガワの方は見れるようになったけど、実際に人が乗るとなると、まだ足りてない所が多すぎるな」


 多分、跨るまではできるけど、走るとなるとその衝撃に脚が耐えられなさそうだ。走行中に放り投げられたら、魔力による強化があるとはいえ、無事では済まないだろう。


「でも、時間をかければ出来そうなんでしょ。なら、何も問題はないわよ。流石に一日でできるとも思ってなかったし。こっちはぼちぼちよ。多分、この感じなら来週末には間に合いそうね」

「そうか。なら、俺もそれまでには完成させないとな」


 来週末か。そこで遠征をするとして、今週末はどうするか。今日は木曜だし、土日はすぐだ。何か用事があるなら、聞いておかないとな。


「今週末はどうする。この体じゃ、どっちか一日はダンジョンに入らなきゃいけないわけだが。なんか、予定とか無いのか?」


「こんな体になったから一通りキャンセルしたの。だから、当面は予定といった予定はないわね。強いて言えば、ダンジョンに入る予定よ」


「だよな。俺もバイトは全部、やめることになったし。突然で悪いとは思ってるけど、このツノがある状態で客前に出るのも、な。おかげで予定はなしだ」


 こう言っちゃ寂しいが、毎週のように遊ぶような友人もいない。

 今となっては都合がいいので、問題ないのだがシズクは友人付き合いとかは大丈夫なのか?

 そういうのって、偏見だけど男子より女子の方が面倒臭そうだし。

 思い切って聞いてみた。


「ああ、そんなこと気にしてたの? それなら何の問題もないわ。今は付き合いたての彼氏と、色々忙しいってことにしてあるから」


 しれっと、そんなことを言う。


「してある? いや、まさか」

「許して……ね?」


 昼休み。やけにあっさり友人と別れて、こっちに来たなと思っていたけど、これが理由だったのか。


 つーか、俺に彼女がいたらどうするつもりだったんだよ。

 俺がじっとシズクを座った目で見つめていると、慌てた様子で言い訳を始めた。


「ほら、イツキって別に彼女とかいないでしょ?」

「いや、なぜ分かった」


 これはあれか。お前に彼女なんているわけないだろ、っていう遠回しでもなんでもない悪口か?


「彼女がいたら、ほいほい私に着いてきたりする?」

「いや、しないけど」


 さすがにそこまで、軽い男じゃないぞ。


「でしょ。そういう人柄とか、二人っきりで行動すればわかるものよ」

「そんなもんか」


 俺にはわかる気がしない。


「もうこんな時間よ。予定はまた、明日の昼にでも話し合うことにして、早く帰りましょう」


 なんか、誤魔化された気がしないでもないが、確かに時間はもう十九時を過ぎている。


「オーケー、また明日な。じゃ、さっさと帰るか」


 ダンジョンの入り口はすぐ近くだ。

 すぐに出口にたどり着く。


「また明日。お昼休みにね」


 こうして俺は、シズクの家である葛ノ葉神社を後にした。

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