第12話 <樹術使い>と<式神使い>
昨日と同じく、シズクの家である神社。そこにできたダンジョンへ来た。
目的は訓練。早速、ダンジョンの中へ入り、見通しの良い大部屋へ向かった。
「アレ、ギフトの練習の的にちょうどいいわね」
シズクはそう言って、部屋にもともといたモンスターを指差した。そいつはここのダンジョンで良く見かけるトカゲ型のモンスターだ。大きさは一メートルほどで、低階層だからか特殊な能力や魔術の類は使ってこない。控えめに言っても、ただの案山子だ。
「昨日見たのは<樹術使い>とのコンボだったけど、<式神使い>単体でどんなことができるんだ?」
「たとえば、こう」
シズクはおもむろに制服のブレザーから紙片を取り出すと、ふわりと空中に放り投げた。
それは鳥の形をとり、モンスターへまっすぐ突撃する。そのまま、トカゲのモンスターの顔部分にぶつかると、軽い破裂音と共に小規模の爆発が起こった。
その流れのまま、残りもモンスターにそれを投げ、同じく顔に当たり、爆発を起こした。
当たりどころの問題か、すべてのトカゲ型モンスターはその一撃で倒せたようだ。
「ざっとこんな感じ。持ち運びしやすい紙型の式神だと耐久力が低いから、基本使い捨てになっちゃうの。イツキの木型はその点、頑丈だから昨日みたいに白兵戦もできたわけ」
なるほどな。アイテムバッグがあれば違うのだろうが、ああいった高級品は初心者には高嶺の花だ。
持ち運べる重さを考えると、耐久力のある物を使うのは中々難しそうである。
「<式神使い>は工夫のしがいがありそうだな。俺の<樹術使い>はシンプルで植物の操作と急速な成長に特化してるな。今の所だけど」
俺の話を聞いたシズクはしばらく考え込むと、パッと顔を上げた。
「……やっぱり相性いいかしら、私たち。放課後のダンジョンで何をすればいいのか分かったかも」
「どういうことだ?」
「昨日も思ったんだけど、私の<式神使い>って器ありきなの。例えるならソフトウェアはギフトで用意できるけど、ハードウェアはあらかじめ自分で用意しなきゃならないのよ。これ、ホント面倒なのよね」
その作業を思い出したのか、話している途中から眉間にしわが寄っていった。どうやらその器とやらを用意する作業はシズクのメンタルに相当なダメージを与えたらしい。
「なるほどな。俺はさしずめ、ハードウェア担当か」
「そうね。今まではダンジョンに入る前に器を用意していたから、突発的な事態に弱かったの。アドリブ力も上がったし、イツキ様々ね」
これでひとまず、何をするのかは決まったな。
こうして俺はハードウェアのクオリティを、シズクはソフトウェアとなる式神のバリエーションを、それぞれこの放課後の訓練で強化することになった。
「今、呼び出せる式神ってどんなのがあるんだ?」
「さっき見せたのが小鳥型、あとは昨日の小人型。まだ見せていないのは狼型、人型、今のところ計四種類ね。種類が少ないのは、ちゃんと探索者を始めたのがこんな体になってからだから。習熟が足りてないの」
「少ない、なんてことないだろ。片手間でそれなら、十分じゃないか?」
「先に進むには全く足りない。身近に探索者がいるからわかるけど、探索済みのダンジョンと、ここみたいな未攻略のダンジョンで全く勝手が違うの。ただモンスターを倒せる、それだけではすまないの」
父親が探索者なだけある。その言葉には実感がこもっていた。
「というわけで、まずイツキに作ってもらいたいのは馬型の器よ」
「馬型? 人型とか、狼型じゃなくていいのか。まだ式神も呼び出せないんだろ?」
「優先順位よ。限られた休日を有意義に使うためにも、まずは移動速度を上げないと」
確かに、言っていることはもっともだ。
「オーケー、なら馬型からな。早速、やってみるわ」
探索用のポシェットから植物の種を取り出して、大きく成長させる。
昨日の人形を作った要領で、ああだ、こうだと試行錯誤をしてみるがこれが意外と難し。移動手段というからには、この馬に跨るわけで。安全性も考えると先は長そうだ。
「それじゃ、私も式神を作るのに集中するから。もし、モンスターが来たら任せてもいい? この作業しながらだと、警戒まで気がまわらないかも」
「それは任せとけ。存分に集中しててくれ」
「ありがと」
その一言を残し、シズクは目を閉じ、無言になった。
よし、俺も始めるか。
入り口に体を向け、警戒しつつ、再び不恰好な馬を作り始めた。
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