第11話 昼休み兼作戦会議
翌日の昼休み。
今日の放課後の予定を決めるために、シズクがいるであろう隣の教室へ向かう。
頭のツノについても、クラスメイトの反応は昨日より落ち着いたもので、すでに話題は別のものにシフトしていた。
東京にある有名な大学がダンジョン関係の学部に、新たに推薦枠を作ったらしい。
進路として、本格的に専業探索者になる前に大学に通ってダンジョン関連の研究をするのも楽しそうだ。
教室の扉は開いていた。
ぱっと見、シズクは見当たらない。目立つ容姿なので、教室内にいるならすぐに見つかるはずだ。
どこに行ったのか、と考えていたら背後から声をかけられた。
「もしかして、私、探してた?」
「おう、正解。昨日ぶりだな」
振り返ると、俺と同じくツノを生やしたシズクがいた。
気だるげな雰囲気を出しているが、体調は悪くなさそうだ。
「で、何か用事?」
「放課後の探索、時間もあまりかけられないだろ? 作戦会議でもどうかと思ってな」
多分、急いでもダンジョン探索を始められるのは十七時くらいからだ。それだとダンジョン探索にかけられる時間は精々、二時間が限界だ。
そういった理由で俺はシズクに誘いをかけたのだ。
「分かった。少し待って」
シズクが教室の中へ戻る。彼女は友人らしき女子生徒に声をかけてから、小さなバッグを片手に廊下に戻ってきた。
「じゃあ、行きましょ」
向かったのは学生食堂。
俺はいつもここで昼食を済ませているが、シズクは弁当派らしい。
席に着くと持ってきたバッグから弁当箱を取り出した。
さっさと食券を選び、食事を片手に席に戻る。今日の日替わり定食は唐揚げだった。
「おまたせ。先に食事を済ませるか」
「そうしましょ」
対面に座り、いただきますと食べはじめる。
にしても、シズクの弁当がデカイ。野球部クラスの大きさだ。
「なに、じろじろ見て……もしかしてこれ、食べたいの?」
と言って、シズクは卵焼きをくれた。
「お、おお。サンキュ」
そんな物欲しそうな顔してたか、俺?
「いいのよ、等価交換よ」
流れるように俺の唐揚げを一つかすめとり、シズクはそのまま口に箸を運んだ。
「ちょっと待て、どこが等価交換だ! 明らかに俺の唐揚げの方がレアリティが高いだろ!?」
「その卵焼きは私が作ったのよ。付加価値よ、付加価値」
ええ……確かに、シズクの顔を整っているし、ありていに言えば美人だが、今の俺は色気より食い気。その言い分を素直に飲める度量は俺にない。
ああだこうだと攻防戦を繰り広げているうちに完食。
「腹ごなしも済んだし……さっさと始めるか、作戦会議」
「直近の問題は一回の探索に時間をかけれないことね。休日でもない限り、ダンジョン探索に当てれる時間は三時間が限界ね」
俺たちに足りていないのは実力ではなく時間だ。特に五層より先に進むには、マッピングを含めると丸一日空いていないと難しいだろう。
しかし、俺たちは少なくとも強くなるまでは頻繁にダンジョンに潜らなければいけない。これが普通の探索者なら、休日だけを探索にあてて、放課後に態々ダンジョン探索なんてしないんだけどな。
「あー、全くいい案が浮かばねえ。放課後に探索を進めるのはどう考えたって無理があるだろ」
「んー、いっそ探索を進めるのを諦めるのはどう?」
攻略方法を悩んでいる俺をよそに、シズクはそもそも攻略しなければいいと言った。
「いや、俺たちの直近の目標はダンジョンに入らなくていい期間、インターバルを伸ばすことだろ。それを諦めるっていうのか?」
「別にそういうわけじゃないわよ。そもそも放課後の探索自体、無理があるの。だから、放課後と休日は完全に分けて考える。放課後はダンジョンの中でギフトの習熟や連携の訓練にあてる。休日は攻略に専念、なんてどう?」
あり、だな。むしろ、それ以外考えられない。
シズクを見れば、自信ありげな表情だ。
「下手に先に進むことに時間をかけるより、割り切ってその時間を訓練に当てるが一番効率が良さそうだな。お前、天才か?」
「ふふん、どうよ」
ドヤ顔に若干、イラっとする。まあ、良案に免じて、頰を引っ張る刑に処すのは許すことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます