第3話 『桜樹廻廊』


 探索者向けの食堂で軽く食事を済ませ、ダンジョンへ向かう。


 『桜樹廻廊』は桜の大樹の根本。そこに出来た洞を入口としたダンジョンだ。


 大きさも中々で、入口だけでも大人が二人並んで入れる広さがある。


 係員に探索者カードを渡し、ダンジョンに入る時間を告げる。


 現在、午後一時。

 午後五時を目処に探索をする予定だ。


 見る限り、周りに探索者は居ない。恐らく、専業の探索者は朝早くからダンジョンに入るのだろう。


 根が絡まった様な階段を降りていく。


「よっし、久しぶりだし気合い入れてくか」


 ダンジョンで初めてモンスターを倒すと、誰しも必ず一つの能力が開花する。


 それはギフトと呼ばれ、自分がどんな力を開花させたか、感覚的に理解出来るのだ。


 俺のギフトは<樹術使い>。


 木や植物を意志と魔力によって操ることが出来る力だ。


 <樹術使い>はこの『桜樹廻廊』との相性がかなり良い。ここに手ぶらで来れたのも、それが理由でもある。


 一層に出現するモンスターは一種類のみ、ウッドパペットと呼ばれている。


 自分が小さくなって、木の中に入り込んだかのような光景が続く中を、数分ほど歩いた頃。


 ウッドパペットが、一本道の先に現れた。


 ウッドパペットの見た目はバットよりも細い枝が、無理して人型を維持している様だ。くねくねと、身体をしならせながら、こちらに近づいて来る。


 うん、運動音痴が走っているみたいなフォームだな。


 近づいてきたところを横に軽く避ける。


「よっ、と」


 すれ違いざま、足を引っ掛けるとウッドパペットはなんの抵抗もなく地面に転倒する。


 俺はそのウッドパペットの背骨にあたるだろう部分に足を乗せ、てこの原理で折り曲げた。


「ふう……よし、動かないな。これで武器は確保完了」


 一分ほど、放っておけばウッドパペットだった物はダンジョンに飲み込まれるように消えていく。そして、残されたのが魔石と呼ばれるアイテムだ。

 この大きさなら、買取金額五十円ってところか。


 そして、もうひとつの戦利品は一メートル程の真っ直ぐな棒だ。


 理想を言えば倍の長さは欲しいのだが、ここはダンジョン。


 ハックアンドスラッシュで、武器を交換していけばいい。


 名付けるなら、いい感じの棒か? 効果は少年心をくすぐる。それだけだ。


 つまんねー冗談は置いておくとして、順調にダンジョンを進んで行く。

 

 春休み明けで体力が有り余ってるのか、いつもより疲労感がないな。


 このダンジョン『桜樹廻廊』で、五層まではチュートリアルだ。

 出てくるモンスターは群れることがなく、殺傷能力もほとんどない。当たりどころが悪ければ死ぬ、程度の奴らだ。


 そんなわけで、第三層。

 ここまで三十分もかからずに来れた。三層目からはウッドパペットだけでなく、新たなモンスターも現れるようになる。


「出たな、桜餅」


 そいつはピンク色の粘性体。いわゆるスライムだ。


 スライムはダンジョン毎に様々な特性があって、ここな桜餅スライムは薄ピンクで甘い匂いを出している。


 ドロップ品は桜餅。結構美味しいし、探索のお供にと、評判だ。


 食べ物系のドロップアイテムは、魔力によって固定されていて、時間や温度による劣化がほとんどない。


 そして、ほんの少しの魔力を流すことで食用可能になる。この時、何故か汚れが落ちることも確認されているので、食中毒の心配もないのだ。


 ズルズルと地面を移動するスライム。半透明な体の中に存在する核がコイツの弱点だ。


 面倒だが、核にあたるまで棒で叩く。


「お、一発か。幸先いいな」


 ドロップした桜餅を、食べ歩きして探索を進める。


 そして、たどり着いたのは十層に至る階段だ。


「やべぇ、今日めちゃくちゃ調子いいぞ……いや、なんで?」

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