第4話 十層
このダンジョンは十層ごとにボスが出現する。
実は十層のボスだが、体験済みである。
その時は、探索者組合で集まった野良のパーティで挑戦したが、難なく突破できた。
「どうする……挑戦するか?」
時間を確認すれば、現在午後四時。
ボス部屋は、ボスを倒すことで帰還用の転移ゲートが解放させる。
ボスに挑戦せず一層まで歩いて帰るよりも、ボスを倒して転移ゲートで帰った方が十中八九、楽だし早い。
「やるか。無理そうなら逃げりゃいい話しだし」
ボス部屋は逃走できない部屋と、できる部屋がある。
幸い、次の十層は逃げることができるタイプと分かっているので気軽に挑戦できる。
階段を降りた先には、これまでの木の洞の洞窟から一転。
小さな森が広がっていた。
木々から伸びた枝は、天井を覆っている。まばらに生えている木は障害物になっており、見通しが悪い。
十層のボスモンスターは、痺れアゲハ。ざっくり言うとアゲハ蝶が大きくなったモンスターだ。
羽を広げた姿は中々の大きさで、かなり迫力がある。
木の影から現れた痺れアゲハは、こちらに気づくと高度を上げ、上から俺を見下ろした。
「ピュルゥウ」
ストローみたいな口から笛音を鳴らす。威嚇でもしているのだろうか?
痺れアゲハが羽ばたく度に、鱗粉が周囲に舞う。それがダンジョンの光に反射している。
「まずは距離を取らないとか」
あの鱗粉は吸い込むと、体が痺れ段々と動けなくなる。だからこそ、アイツに頭上を取られない位置取りが重要だ。
そして、一定距離を保って逃げていると――
「シュルル!」
痺れアゲハは、ストロー状の口をこちらに突き立てるようにして、突進して来た。
そして、その口が俺の体に突き刺さる直前。
周囲に生えていた木々が、縄のように痺れアゲハに巻き付いた。
「確保完了。やっぱ、俺のギフトと相性良いな」
雁字搦めになった目の前のボスを見て、そう思う。
手に持った棒の先端を<樹術>で尖らせ、痺れアゲハの頭に突き刺した。
ぴくりと痙攣したあと、動かなくなったソレを見て、拘束を解除する。
地面に落ちた痺れアゲハは消え、部屋の中心にボス討伐の報酬が現れる。
地面から生えてきたのは木製の宝箱だ。
開けてみると中にあったのは野球ボール位の魔石。
「お、運がいいな」
それと、短剣が一本。刃の鏡面が毒々しい模様と反射光を放っている。
短剣はいわゆる、バタフライナイフと呼ばれる形状だ。多分、毒の効果もあるだろう。
戦利品を拾い上げ、バッグへしまう。
「確か、転移門はこっちだったか」
前回、ここに訪れた時の記憶を頼りに期間用の転移門を探す。
「コレだな」
十一層へ進む階段。その奥側の壁に、ボスを倒す前にはなかった通路が開かれていた。
その通路を進む。
五分ほど歩いていくと、出口が見えてきた。
「もう、夕暮れ時か」
入ってきた時とは反対側に出口はある。
俺が通路から出ると、ぐねぐね樹の皮が蠢き出しその通路を塞いだ。
何度、経験しても不思議なものだ。ただ平坦な一本道を進んできただけで地上に出た。
――ダンジョン出現から二十年、未だ謎ばかりだ。
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