第2話 日本ダンジョン事情
三年生になったと言っても、通っている高校はクラス替えもない。進路によって受ける授業が変わるくらいだ。
あっという間に始業式も終わり、帰りのHRの時間になった。
担任も変わることなく、いつもどおり帰りの挨拶を済ませた。
「じゃあ、気をつけて帰れよー。新学年、早々に事故なんてシャレにならんからな」
今日はどの部活も休みで皆、帰りの準備をしている。と言っても、俺は帰宅部なので関係なく帰れるのだが。
「なあ、カズキ。今日は俺も部活休みだしさー、カラオケでもいかね?」
帰宅準備を進めていた所、テニス部の友人に誘われた。
「わりぃ。今日、用事あるんだわ」
「まーた、バイトか?」
ここの高校はバイト可能なので、俺は趣味の旅行の為にバイトの掛け持ちをしている。そのため、こうして遊びに誘われても断ることの方が多い。
今回もそうした理由だと思われたのだろう。
「いや、実はな……家の裏にダンジョンが出来たんだ」
若干のためをつくり、小声で友人に告げる。
「はっはー、まじかよ。ご愁傷さまだな」
「や、笑い事じゃないんだわ。ほら、家って農家だろ」
笑ってるところ悪いが、マジで冗談じゃ済まない。
「ああ、そういえば。お前ん家の周り全部、畑だったっけ?」
「そうそう。んで、ダンジョンが出来たのが家の裏にある林なわけ」
「つーことは最悪、引越しか畑を潰さなきゃならんのか」
そう。立地の問題でダンジョンの出来た土地を国に開け渡そうにも、ダンジョン管理の都合上、その周辺の土地もまとめて、となるのだ。
「先祖代々、あそこに住んでるからな。多分、あのダンジョンは家で管理することになるわ」
「個人管理かー。あれってかなり大変だって聞くぞ。モンスターを間引くのも浅い階層じゃ、効率が悪いし」
ダンジョンを個人で所有する場合、国から管理義務が課せられる。
なんでも、半年に一回スタンピードが起きないかどうかの検査があるらしい。その検査に合格できなければ、罰金があると聞く。
「まあ、十中八九、俺が潜る事になるな。探索者資格持ってるのうちじゃ、俺だけなんだよ」
「うん……まあ、頑張れや。俺もペーパーだけど資格持ってるし、なんかあったら呼んでくれ」
その配慮に涙が出そうになる、なんてな。
「おう、助かるわ」
「んじゃ、まあ明日な!」
学校から出て向かう先は、俺の住んでいる桜木市にある唯一の探索者組合だ。家族に頼まれた用事のため、そこに向かう。
自転車で、一時間。
桜木市にあるダンジョンで一番大きく、人の集まる場所。
ここがダンジョン『
なんでも、ダンジョンが出来る前は樹齢数百年のちょっとした観光名所だったらしい。それが今や桜木市随一のダンジョンだ。
探索者になった時に何回か、このダンジョンを探索した。
まあ、まともに探索したわけでもなく、探索者ランクも最低のF級だ。
それにしても、市に唯一の探索者組合だけあって駐車場やら、何やらとにかく広い。
ほかのダンジョンは小さな出張所のようなものばかりで、ドロップ品の買取などは出来るが、昇級試験やダンジョン関連の手続きは出張所で出来ない。
そのために、俺はここまで足を運んだのだ。
仕方ないと言えども、自転車で一時間はちと遠いな。
自転車を駐輪場に止め、探索者組合の建物に入る。
探索者組合は受付のある建物に、倉庫と運動用の体育館が隣接されている。
例えるなら公民館のスケールをひと回り大きくした感じだろうか。
受付に向かい、本日の要件を告げる。
「すみません。敷地内にダンジョンが出来たんですけど……どうすればいいんですかね?」
「ああ、そういった手続きはあちらの五番窓口で受け付けています」
うーん、お役所仕事。気にせず五番窓口へ。
先程と同じように尋ねると。
「こちらの資料通りに、必要な書類を提出頂ければ私有ダンジョンの許可が発行されますよ」
渡されたのはA3サイズの分厚い封筒だ。
「ありがとうございます」
「それにしても珍しいですね。私有地ダンジョンの許可申請なんて年に一回あるかどうかなのですが……今日は貴方で二件目ですよ」
ふむ。似たような状況の人が他にもいるのか。
なんだか親近感を覚えるな。それにしても年に一回あるかないか、か。
「そんなに珍しいですか」
「まあ、ダンジョンが出来ることも中々ないのに、わざわざ私有ダンジョンにしようなんてね。ダンジョンが出来た土地は国が高額で買い取ってくれるし、買い取ってもらう方が後腐れもなくて楽ですから」
ごもっとも。だが、うちの家族は家を売ることは欠けらも考えていないだろう。
なお、ダンジョンの発生届けも提出する必要があるが、これは発生から十日以内に提出すれば問題ない為、まだ日もある。
つまり、この封筒を受けとれば今日の用事は終了だ。
……しかし、これからは私有地ダンジョンの間引きをしなきゃいかんのか。
ぶっちゃけ運動なんて体育くらいで、バイトにしたって身体を酷使することはない。
色々と鈍っているは確かだろう。
うん。そうだな、久しぶりにダンジョンに入ってみるか。
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