日常≒冒険 〜鬼人、龍人、現代ダンジョン探索譚〜

夏冬

第1話 ある日、起きたらダンジョンが出来てた

 西暦二千年。人類に転換期が訪れた。

 空想上のものであったダンジョンが地上に現れたのだ。


 そのダンジョンにいるモンスターを狩る事を生業とした冒険者。彼らの扱う奇跡のような現象である魔術は、またたく間に日常の一部となっていった。


 そして、現在――


「ふわぁーあ。今日から三年生かよ」


 春休みも明け、訪れた始業式。ついに俺も高校生最後の年を迎えるわけだ。


「んー、まだ六時か。早く起きすぎたな」


 カーテンを開ければ、まだ外は薄ぼんやりと朝日が覗くだけだ。


 寝ぼけ眼で、グラデーションに染まる空を見ていると。


「グルルルゥ、ガウッ」


 朝の静寂を破るように、犬の鳴き声が聴こえた。


 飼い犬のタロは散歩をご所望か? にしては随分とと機嫌が悪そうだ。


 幸い、ここらは田舎。

 一番近いご近所さんも畑を三つ跨いだ先だ。

 近所迷惑にもなる訳でもないので、ゆっくりと外に出る準備を進める。




 四月の少し肌寒い空気に身を震わせつつ、身支度を進める。


 冷たい水を顔にかけて目を覚ます。

 水に濡れた顔をタオルで拭う。


「んだよ、タンコブか?」


 何やら左右両方のこめかみあたりに、こぶが二つ出来ていた。見事なまでにシンメトリーだ。手で触れてみても、明らかにそこが膨れていることが分かる。


「どこにぶつけた? いや、そんな記憶はないよな……」


 こぶになる要因は、ここ一週間に心当たりはない。


 うーむら寝てる間に壁にでも打ち付けたのかもしれないな。

 寝ぼけていたら、痛みがあっても忘れることもあるだろう。いや、流石に無いか……?


「ああ、そういえば昨日、地震があったな」


 寝ている途中だったこともあって忘れていたが、中々に大きな地震だった。体感震度四程度だろうか。もしかしたら、覚えてないだけでその時にぶつけたのかもしれない。


「ま、そんなことより散歩に行くか」


 寝巻きのジャージに、薄い防寒着を羽織る。

 俺はタロの居る、家の裏にある小さな林へと向かった。



 タロのいる場所は、家の裏にある小さな林、その手前だ。

 犬小屋に繋がれていて、いつも散歩前にはお座りをして待ち構えている。


 ……はずなのだが、やはり。今日はいつもと様子が違うようだ。


「おーい、そんな唸ってどうした? 散歩の時間だぞ」


 何時もなら散歩の言葉を聞いただけで飛びかかってくるのだが。


 今は俺のことはそっちのけで、唸っている。


「なあ、タロ。なんかいるのか?」


 ここら辺でいるとすれば、蛇とか野良猫か?


「仕方ねえなー、ちっと見てくるから。タロはそこで待ってろよ」


 このままだと、タロにリードをつければ何かを追って林に入ってしまいそうだ。


 原因究明のため、仕方なく林に足を進めた。



 家の裏にある林。


 広さは一辺が五十メートルの正方形に近い。と言ってもほとんどが木々に覆われている。


 足を踏み入れられるのは、入って十メートルくらいだ。


 虫やら蛇やらが出るので、この林に入るのは中にある小さな社を世話する時くらいだ。


 社と言っても本当に小さなもので、田舎の道端にまれにある稲荷神社くらいのサイズ感だ。


 ……なのだが、何故か社が無くなっている。


 あの社はなんでも家の祖先がここに家を建てる前からあるらしい。毎朝、じいちゃんは畑仕事の前にここにお参りしているのだ。無くなったら悲しむ所ではない。


「夜の地震で崩れたか?」


 社の土台は石造りで、しっかりした造りだった。流石に昨日のアレで倒壊することはないと思う。


 歩を進め、社のあるべき場所に向かう。


「うげ、マジかー。もしかしなくてもコレってアレだよな」


 石造りの壁に囲まれた階段が、地面の奥底へ続いている。


「私有地にダンジョンとか、クソめんどくさい……」


 あれこれ考えるだけで嫌になる。そんな陰鬱とした気分で俺の高校三年目は始まったのであった。

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