後編「それが私の気持ち!」
「あの無双のファロバを倒すとは!さすがイーサン団長!」
1人の男が騎士達に囲まれ、賛辞を贈られている。彼の名前はイーサン。ステラ王国、ドラゴン騎士団団長だ。
(さすがあのペガサス騎士団団長だ。あれほどの騎士と剣を交える機会はそうないだろう)
彼は賛辞に笑顔で答えながら、ファロバのことを考えていた。彼女との対峙からずっと心臓が激しく鼓動している。多少は落ち着いたがその時は心臓が飛び出してしまいそうな程だった。
(しかし、途中で動きが鈍った。理由はわからないが、勝負は勝負、次も絶対勝つぞ)
手に力がこもる。イーサンは団員達にむけて、
「作戦は先程と同じだ。俺が彼女を倒す」
「了解!」
団員達の力強い返事を聞きながらイーサンは試合場の向こう側を見た。その視線の先にはファロバがいた。
最終戦が始まる。どちらの騎士団も2勝2敗、次の一戦でこの試合の勝敗が決まる。開始のラッパが闘技場内に響き渡った。
開始後すぐに互いに望んだようにファロバとイーサンは対峙する。
再び剣撃の応酬。一瞬の油断も許されない戦い、そんな中、ファロバは突然口を開いた。
「マスキングからマとングを取ったら?」
イーサンは困惑した。いったい何を言ってるんだ?
「それが私の気持ち!」
僅かであるがファロバの剣撃が弱まる。
(やっぱ言うの恥ずかしい!!でもこれなら伝わるはず!)
頭に浮かんだ二文字を直接口にする勇気がなかったファロバが考えた作戦は子供じみていたが彼女が一生懸命考えたものだった。口にして少し満足気ファロバだったが、対するイーサンにとってはますます意味がわからなかった。
「何を言ってるのかわかないが、決めさせてもらう!」
剣撃が弱くなったのを好機と捉えたイーサンは深く踏み込み、強力な一撃を放つ。
「ああもう!スキってことよ!!」
が、苛立ちの声と共に強力な一撃を返された。イーサンはすぐさまそれを受け止め、
「俺にスキなどない!!」
「はっ?」
ファロバが呆気に取られた表情の後、眉をひそめ、
「違うわ!!ラブよ!ラブ!」
今度はイーサンが呆気に取られる番だった。それを見たファロバは苛立った様子で
「あなたが好きなんです!付き合ってって言ってんの!!」
イーサンの顔が熱くなる。
(なんだ…だって)
イーサンの頭はうまく働いてくれない。困惑しながらファロバを見てみると少し涙目で顔が真っ赤だった。
(…かわいい)
イーサンの鼓動が早くなる。心臓が飛び出してしまいまいそうなほど。
(この感覚は…)
イーサンは理解してしまった、先程からの胸の高鳴りは強敵故では無く、無意識に目の前の人物に惹かれていたという事を。
2人は顔から蒸気が出そうなほど顔を真っ赤に火照っていた。
驚く事にその間も剣の応酬は勢い弱まらず続いていた。
闘技場内は2国間での試合の歴史の中でも類を見ないほど熱狂していた。
「あいつが赤くなるのなんて見た事ないぞ!なんて手強い敵だ」
「こんな熱い戦いみたことない!がんばれ!」
国関係なく、2人の団長の戦いに観客達は釘付けだった。
「は、早く返事を返しなさい!」
「そ、そんな!すぐには無理だ!」
2人はそんな事をずっと言い合っていた。
「「ああ!」」
色々な意味で心が削られていた2人は同時に勢いよく攻撃を繰り出した。空気を切る音がするような強力な一撃だった。が、2人の剣は交わることはなく互いの人間の急所である心臓の位置にあたる。すると、2人は鎧に全身をロックされ地面に倒れた。
暫くして終了を知らせるラッパが鳴った。どうやらファロバの読み通り、ペガサス騎士団が勝ったようだった。
しかし、自軍が勝ったはずなのにファロバは泣いていた。
「あーもう。返事貰えなかった」
試合は終わった。仲の悪い両国の騎士団はすぐに帰ってしまう。べそをかくファロバに上から手が伸ばされる。顔を上げるとそこにあったのは屈んだイーサンの姿だった。
「まず、友達からよろしくお願いします」
しばらく固まっていたファロバだったが、満面の笑みに変わり、イーサンの手を掴み彼女は飛び上がるように起き上がる。
「よろしくお願いします!!」
手を取り合った二人を見た観衆が大きな歓声を上げる。
観衆たちは国関係なくこの戦いに興奮し、二人を称えた。2つの国の国民が初めて一体となった瞬間だった。
その後、2国共に楽しんだこの試合をきっかけに両国は関係は少しずつ良好なものになっていき、ついには2国間の往来が自由にできるようになった。
さらにその後二人が初めてお茶しにいくのはまた別の話。
騎士は戦いの中で恋を知る イシナギ_コウ @ishinagi_kou
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