第51話

 かずさはくずおれ、うなだれながら顔をグシャグシャにして泣いていた。

「全然……できないよ」

 ぽろぽろと落ちた涙の粒が床にシミを作る。


「かずさ」

 あさぎは後ろから妹を抱きしめた。

 姉の頬からも涙がこぼれる。

「時間よ、彼の元へ行きましょう」




 老婆の後ろ姿が見えた。

 かずさが声をかけようと近づく。

「死んでる」

 老婆は立ったまま絶命していた。

 さきほどまで三日月と対峙していたであろう狼たちも、ふっと姿を消す。

 彼がこちらを見る。

 咆哮をあげてかずさを襲おうと向かってきた。

 かずさはただ見ていただけだった。

返り血と土で白い毛は殆ど黒に近い色になっている。

爪が届くすんでのところで、彼は魔法の戒めで動けなくなった。

「私のことわかる?」

 声が震える。

 彼はただ唸るだけだった。

「ねえ、こたえてよ……」

 涙が目に滲む。

(もう、私の声は届かない)

「今のうちに」

 信也がそう言った。

「かずさ……」

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