第44話

 不氣味な紅い月が皆既月食で姿を変えている時に、その赤ん坊は生まれ落ちた。

 その子は生まれた時から、頬に三日月形の痣があった。

 四歳になる頃、村によその人が来た。

 親は来た人間に子供を売った。

 車に乗せられて泣き叫んだ。親と離されて不安しかなかったのだ。

 うるさいと怒鳴られて叩かれる。

 子供は怯えた。後部座席で震えながら小さく泣いた。

 車から降ろされて連れて行かれた汚い狭い部屋には、数人の子供が暗い顔をして座っていた。

 部屋は窓を木の板で塞がれて、天井から電球がぶら下がっている。

 子供はただただ、不安で泣くことしかできなかった。

 その場に集められた子供たちはオトルと呼ばれる集団に神事の道具として集められた子供たちだった。

幾日がたった、深夜。

 その神事は地獄だった。

 ただ、獣たちがむさぼりあっていたようだった。

 子供たちは何かわからぬまま大人のされるがままに扱われた。

 行為が終わると、口を黒く塗られた。

 最初の一人が祭壇に寝かされて手足を縛られる。

 男が祭壇の前に立って銀の短剣を両手で掴み、刃(やいば)を下に向けて腕を最大まで上げた後、下に思い切り突き立てた。

 鮮血が男の腕に、祭壇の回りにビチャとはねる。

 子供の断末魔の叫び声。

 グッタリとしていた子供たちもその悲痛な叫び声を聞いてむくりと起きて、その光景を見て泣く子やただ呆然としている子、笑い出す子がいた。

頬に痣のある子は、震え上がった。順番に殺されしまうんだとわかった。

 死にたくない、死にたくない、死にたくない。

「いやだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 ガラス窓が割れて入り口の扉がドンと開き、凄い速さで影が入り込んできた。

 影は大人達に襲いかかり、喉に噛みつき、衣服をズタズタに引き裂き、頭に噛みついて左右に振り、はらわたを荒らして、口元を朱い液体でベットリと汚す。

 建物の中は血のにおいで溢れかえった。

 全ての子供達は泣き叫んだ。助けて、助けてと誰も頼れる人がいないのに震える声をはりあげていた。

 月の光がさしている入り口の扉から一人の老婆が中に足を踏み入れた。

「お前達は私に助けられた! この者たちに殺される運命だったのを変えてやった! 今からは自由の身だ!」

 子供達は泣き止み、老婆を凝視する。

「あたしについてきたいやつはついてきな!ただし、ついてきたやつは人間をやめて狼になってもらう!」

 老婆はくるりと後ろを向いて歩きだした。

 その場にいた獣たちもその後を追う。

 頬に痣のある少年は老婆の後を追ってかけだした。

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