第43話

三日月は身を揉んで苦しんだ。

狂熱に支配される。

心が何かに奪われたようだった。

 目の色が青に変じる。

 忘我。

 その恐ろしいまでに魔力が超絶した存在はもはや魔神と言ってもよかった。

 魔神は立ち上がっていた。

 狼人間の一体が魔神に襲いかかる。

 そいつは前頭を鷲づかみにされ、脳髄をたばしらせた。

 魔神の頬に血が飛んだ。

 もう一体が動かぬ間に胸を貫かれる。

 いつの間に動いたのか目に見える速さではなかった。

 腕を引き抜いて胸を貫かれた狼人が倒れるや、十六夜が魔神に腕を振り下ろす。

十六夜の腕が肘から先が消し飛んでいた。

 苦痛の叫び。

 そのまま、十六夜の首と胴体は分離した。

 他の四体はその光景を見ても、ただ動けずに、震えて絶望していた。

 一匹。

 二匹。

 三匹。

 最後の一人が三日月を見上げながら涙を流す。

「三日月兄ちゃん、殺さないで……しにたくないよ」

 魔神は動かずに、その青い瞳で目の前を見つめる。

 目の前の狼人間には四肢は無く、切断面から血がとめどなく流れ出る。

「がああああああああああああ!!!!ー……」

魔神は頭を抱え込んで膝をつき丸くなった。

 かずさはただ、ただ、茫然としていた。

 なに、これ……

 かずさは三日月に近づいて声をかける。

「三日月……」

 三日月はかずさを見上げた。

 青い瞳は小刻みに震え、面(おもて)は怯えと後悔と苦しみで溢れていた。

かずさは魔法をとめようとしたが何もできなかった。

力が暴走しているのか、そもそも扱えるような魔法ではなかったのか。

(解けない魔法なの……これ)

「殺してくれ、とまらないんだ」

 かずさは首をふる。

「お願いだ、俺が俺であるうちに殺してくれ」

 三日月は咽(むせ)び、頬から赤い涙が流れる。

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