第42話



朦朧とする意識の中、彼女が走りよってくる姿が見えた。

「三日月!」

 三日月は声を出そうとして、血を吐き出す。

「馬鹿野郎……なんで、戻ってき、た」

「あなたを一人になんて、できないからに決まってるじゃない」

 三日月は声を絞り出す。

「死ぬなら……君に抱かれて眠りたい」

「大丈夫、絶対に死なせたりなんてさせない」

 かずさから青白い燐光が煙のようにユラユラと立ちのぼる。


 天上の月が血の色に染まっていく。

十五夜を眺めていた老婆は口を開けた。

「なんと……」


 今、契りを交わし、………………我が力の一介になら…………するか。

消え入りそうな意識の中、何かをしゃべりかけれられていたが、ほとんど聞こえていなかった三日月は無意識に返事を返していた。

「あ……あ」

 なにかの力が三日月に流れ込んできた。

狂氣、混乱、発狂、興奮、覚醒、罪悪、多幸、孤独、衝撃、悪意、善意。

 精神の平衡を失った。

意識の混濁。

 恐ろしいまでの力だった。

激しく高ぶった。

 抑えきれない何かに不安に押しつぶされる。

 傷がみるみると癒える。

「ぐああああああ!!!!!!」

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