第36話
「素敵な場所……」
さらに進むと、だんだんと精霊たちがいなくなり闇が濃くなってきた。
かずさは歩き続けた。
開けた空間の中央にだけ天井から月の光が零れて、苔むした丘に降りそそぐ。所々に白い大きな花が咲き乱れ、ジャスミンに似たやわらかい香りが仄かに香る。
その中央の月下に誰かいた。
かずさは岩の影に隠れてそっと覗き込む。
あれが三日月の主人なのかもしれない。
隻腕の老婆。
いや、髪の長い若くて美しい女性が月を眺めていた。
そのそばに狼が寄り添っている。
かずさが凝視していると、その女性はこちらをふりむいた。
氣がつかれた!?
「そこにいるのはわかっているよ、でておいで!」
かずさは岩の影からでた。
すると、かずさの目に映っていた、美しい女性の姿は老婆に為り変わっていた。
見間違い?いや、確かに若い姿だった。
「あなたが……三日月の主人?」
恐る恐るかずさは言葉を口にした。
「お前さんか、あたしの抜け道を使った者は……あそこを通ってこられるということは月の魔法を扱えるみたいだね、しかも……あたしよりも強力なやつみたいだ……」
「あなたはいったい、人をさらったりしてなにが目的でそんなことをしているの、そんなこと許されると思っているの?」
老婆は高笑う。
「人を狩るのはあたしたちの生業だよ、社会は何かをして皆、対価を得ているだろう。誰かのために働いているだろう? 人を殺して欲しいと思っている人や生きた人間を何かに使いたい人だっているんだよ。わからないかい、需要があるってことさ。これで生活してこうやって身を立てているのさ、人をさらったりしたら悪いことなのかい? 誰が決めたそんなこと、人の世の中のルールなど知るか! 糞食らえだよ! あたしは魔法使いだ!魔法使いのルールがあるのさ。魔法使いは生きた人間を欲している、そうゆうことさ!」
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