第28話

「三日月、どういうことだ、戻れ」

「やってしまったものはしょうがない、俺はやり遂げるさ」

「俺たちに勝てると思ってるのか?」

「勝さ」

 三日月の回りを狼が取り囲んだ。

 低い唸り。

 一匹が飛びかかった。

 三日月はそれの首に噛みつく。

 二匹は激しく転がって噛みつき合う。

 三日月が上になって押さえつけると他の三匹が一斉にとびかかってきた。

 食い込んだ牙を外して迎え撃つ。

 三日月は三匹に噛まれたが暴れ回った。

 四体一で互角以上の闘いをする。

 女の子の小さな悲鳴が聞こえた。

 パッと振り向くと、隠れていた仲間が少女の喉笛をズタズタに噛み裂いた後だった。

仲間の口元は鮮血で朱く塗られている。

 りかの腕はだらりと落ちている。

 三日月は理性を失った。

 そこにいたのは一匹の獣だった。

 頬の傷が青白く光る。



 氣がつくと、狼の噛みちぎられた体の破片と、臓物が散乱した場所に立っていた。

 三日月は人間の姿で傷だらけだった。

 動かなくなった少女のそばに近寄る。

 乱れた前髪をどけて、開いた目を閉じてやった。


 満月の晩に狼の遠吠えがしばらく聞こえていた。

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