第25話

 もうあの人間は死んでしまったんだろう。

 生きてはいないんだろう。

 可哀想だと思った。

 食われるために生まれてきたわけではないはず。

 なのに死んでしまって、どんな氣持ちなんだろう。

 弱いと殺されなければいけないのか。

 いやだ。

 そんなのは、

 俺は弱いのはいやだ。




 三日月は丘で一人、人間の姿で遠くを見ていた。

 天上にある月と、ここから見下ろした所にある湖の水面に揺れる朧氣な月。

 後ろから、誰かが草を踏む音が聞こえてきた。

「どうだった」

 無月が声をかけてきた。

「氣持ち悪かった」

「慣れたらなんとも思わなくなる、数をこなすことだな」

 三日月は黙っている。

「これは、白道様の生業だ、白道様の生業は俺たちの生業だ、生きるためだ、受け入れろ、現実を受け入れろ、強く生きろ」

 白道の元にいる狼たちは白道が拾ってきた孤児だ、白道の魔法で狼の姿になれるようになった者たちだった。

「りか、ちゃんとお留守番頼むわよ」

「わかったよ、ママ」

 と言ってりかは母親を送り出し、リビングに戻ってソファに座りテレビを再び見始めた。

 しばらくテレビを見ていたらワンッと犬の鳴き声がした。

「わんちゃん?」

 上体を起こして、庭に通じているガラス戸の方に目をやると大きな犬が一匹。

 りかは立ち上がり戸の鍵を外して、ガラリと開けた。

「どこから来たの? わんちゃん」

 サンダルを履いて庭にでて近づいていた。

「こんにちは」

 りかが犬に触れようとする直前、視界が真っ暗になった。

「わあ!」


 麻袋に入れられたりかが動いて、袋はもぞもぞとする。

「よし、運べ!」

 りかは拉致された。

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