第17話

彼はベランダで月を見ていた。

 いつも、部屋の中で眺めているのになぜか今日は外にいた。

 かずさは、ガラと戸を開ける。

「ねえ、寒くないの?」

「平気だ」

 はいこれ、手に持ったマグカップを手渡した。

「ココアか?」

「うん」

 白いカップから湯氣があがる。

 かずさは温かいそれを飲みながら、横にいるもの静かな男の顔を見た。どこか寂しそうなそんな横顔を。

「なに考えてるの」

 三日月はチラとかずさに目をやる。

「言わないと駄目か」

「いや、そんなことないよ」

 彼はまた、月を見上げた。

「……君は月に似てるな」

 その言葉を聞いて、かずさは少し笑う。

「なにそれ」

「月を見るのが好きなんだ、心が落ち着く」

 かずさは黙って月を眺めながら、ココアを飲んでいた。

しばらく、二人は黙っていた。

 かずさが指を鳴らした。

 ベランダの手すり壁に向かって氷の階段ができあがり、かずさは上っていく。

 上りきると歩みを止めないかずさの足下に氷の道が伸びていく。

 少し進んだ所で立ち止まり、後ろを振り向いてこう言った。

「私とお月様ならどっちがいい」

沈黙が流れた。

 彼は何も言わず、ただ、かずさを見つめた。

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