第5話

 そいつは下弦の月を背にしていた。

 ほっそりと背が高くて、風にさらりと長い髪がなびいている。

「おまえが最近、悪さをしている奴?別に恨みがあるわけじゃないけど仕事だから、死んでもらうよ」

声を発した人物が見下ろす先、木の影に体の半分を隠して獣がいた。

 毛は白く、月の光に美しく照らされた犬……ではなかった、狼だ。

 狼は犬歯をむき出しにして低い唸り声をだす。

「よっ」

 女は木から飛び降りて、そのまま狼に向かって走り出す。

 ボォッ。手が突然燃えだした、いや、その炎は手から離れて火の玉になりそれを女は投げつけた。

 炎の塊が幾つも狼に向かう。

 狼はそれを身を翻していとも簡単に避けた。木に塊がぶつかる。

 ダッ、そのまま疾走する。

「逃がすかァ!」

 どこからともなく、箒が飛んできて女を乗せて飛んだ。

 どちらも風のような速さだった。

 まわりが一瞬で過ぎ去っていく。

人氣の無い、山間部のバイパス道路。

「そこ!」

「キャン!」

 狼は熱さと痛みに足を噛みつかれて転んだ。

 後ろ足が焼け焦げ、動けなくなり、アスファルトにうずくまった。

「グルルルルルッ」

 唸りをあげる。

 狼から少し離れた場所、女は箒から降りた。

 右手を上に上げると、炎の欠片が寄り集まり、形を変えて細長い槍の形を成した。

「ごめんね」

ぼそりと独語が漏れた。

 槍が狼めがけて飛んでいく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る