第12話 姿隠しと、掲示板と、焼肉のレタス巻き

 さて、匿名で治療をどうやるか。

 エイザークとクルームに相談だ。


 まずはエイザーク。


「誰にも気づかれずに治療したいんだが」

「手がないこともないな。姿隠しのアイテムを作るんだ。だが、絶対に捕まるなよ。どの国でも姿隠しのアイテムは禁制品だ」

「分かるよ。姿が見えないと泥棒や暗殺とかやりたい放題だからな」

「捕まったら死刑だ」


「作るのも不味いんじゃ」

「いいや、密偵には持たせる事があるので需要はある。作るにはミラージュカメレオンの魔石が必要だが、こいつも禁制品だから、見つけたら取り上げる事になっている」

「国の管理になっているって事だね」

「まあそうだ。ソウタには回復の魔石を貰ったから、このぐらい屁でもない。大臣連中も文句は言わないだろう」


 姿隠しは銀のブレスレットに付与してもらった。

 これで姿を見られずに治療は出来るんだが、人に囲まれたら、透明人間といえどもピンチだ。

 攻撃手段が必要だが、傷害罪は嫌だな。


「傷つけずに、悪党にお帰り頂くアイテムはないかな」

「それな」


 エイザークの顔が優れない。

 禁制品の上位バージョンなのか。


「やばいのか?」

「いや、悔しいだけだ。エルフの得意分野だから」

「エルフのね」

「やつらが作っている迷いの森って言えば分かるか」

「なんとなく、分かるよ」


 聖域と繋いで、クルームを呼び出した。


「迷いの魔法を掛けてくれるか」

「お安い御用だ。条件はどうする」

「害意がある者を排除だな」

「基本だな。簡単だ」

「効果はどれぐらい持つ?」

「一日だな」


「じゃあ試しに杭に掛けてみてくれ」

「【精神魔法、害意排除。植物魔法、迷宮】」

「あれっ、これって植物がないと駄目な奴じゃ」

「そうだな。森でないと効果がない」

「まあいいや」


 匿名で治療する目途がたった。

 治療する場所は廃業したホテルとかを使う予定だったけど、森でないと不味いというので神社を考えた。

 神の仕業とかにしてくれたら良いと思う。


 よし、作戦開始だ。

 姿隠しの腕輪を装備。

 家電量販店に行った。

 ネットに繋がっているパソコンを使い、匿名掲示板にアクセス。

 情報を書き込んだ。


【朗報】心霊治療開催【気軽に来てね】

1

場所は○○神社の横手の森。時間は午前10時30分から、午前11時まで。

先着一名で締め切り。


2

糞スレ乙


3

誰が釣られるクマーっ


4

はいはい、終了


 こんなんで良いだろう。

 好意的な書き込みはない。


 来るかな。

 来ないだろうな。


 神社で待つと来たよ。

 健康そうな奴が。

 どこも悪くなさそうだが。


「依頼人か。おっと振り向くな」


 俺は後ろから声を掛けた。

 そしてパスタオルを掛けた。


「うっぷ、タオル」


 男が振り返るが、俺は姿隠しを使っている。

 そして、撤収した。


 掲示板をチェックした。


【朗報】心霊治療開催【気軽に来てね】

15

で!で!伝説の殺し屋に会った


16

餅つけ。何があった


17

神社に行ったら、タオル掛けられてからかわれた

でも姿が見えなかった


18

はいはいスレ主乙


19

本当なんだよ。声かけられて、振り返ったら誰もいない


 信じている奴はいない。

 でも興味を持ったやつはいるかもな。

 何回か繰り返した。

 そして。


【朗報】心霊治療開催【気軽に来てね】

143

場所は○○神社の横手の森。時間は午後3時から、午後3時30分まで。

先着一名で締め切り。


144

伝説の殺し屋さん、ちぃーす


145

次こそは先着に入るぞ


146

行きたいが怖い。誰か代わりに行ってくれ


147

逝ってやるぜ


148

癌でも治るのでしょうか?


149 スレ主

治ります


150

ほんとだな。違ったら訴えてやる。くぁwせdrftgyふじこlp



 ぼちぼち人が集まってきた。

 虫歯が治った、神経痛が治った、薄毛が治った、腋臭が治ったなどの報告がある。

 そろそろ良いだろ。


【朗報】心霊治療開催【気軽に来てね】

368

場所は○○神社の横手の森。時間は午後5時から、午後6時まで。

一回一万円。


369

金取るのかよ。終わったな。


370

守銭奴乙


 もう掲示板は場所を書きこむ以外に利用はしない。

 家電量販店の利用は極力抑えたいからだ。


 今回から迷いの杭の出番だ。

 さて、何人が来るだろうか。


 車いすに乗った人が付き添いに押されてやって来た。


「1万円だ」


 俺は背後から声を掛けた。

 付き添いの人がお金を財布から出したので、俺は奪うように貰った。

 バスタオルを車いすの病人と思われる人に掛けた。


「終わったぞ」

「あなた、どうですか?」

「痛い所がない。体も軽くなったようだ。検査だ。病院で検査だ。急げ」


 夫婦と思われし人達が去っていった。

 そして、続々と患者は来た。

 今日だけで37万円を稼いだ。


 もう会社で働く必要はないな。

 治療と趣味の家庭菜園を続けながら、生きていこう。


 よし、焼肉を食うぞ。

 畑で採れた新鮮なレタスを使った焼肉のレタス巻きだ。


 肉は和牛の良い奴にした。

 縁側に七輪を置いて肉を焼く。

 肉の焼ける良い匂いがして油が炭に垂れる。

 そして蒸発してさらに良い匂いをさせる。

 辛抱たまらん。


 俺は肉を箸で掴むと、レタスに巻いてかぶりついた。

 肉汁がじゅわっと口の中に広がり、噛めば噛むほど旨味が増す。

 そしてレタスのシャキシャキとさっぱりした味がなんとも言えない。


 焼くのが追い付かない程凄い勢いで食べてしまった。

 げっぷ。

 ご馳走様。


 野菜もいいけど肉はいい。

 でも毎日は飽きるんだよな。

 たまに食うから美味いのだ。

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