第13話子爵家の人達〜休憩室にて〜



ミンティス女子爵の邸で働いて9年目。

出産前後には育児休暇なるものを貰い、働き続けている。

休暇、休憩もあるし、最高の職場だ。



イリーニア様は一言で言えば変人。


外ではちゃんと淑女してるけど、邸や領地ではズボンとシャツで走り回り、馬に乗り(女性は馬車しか乗らない)視察だと言って平民の仕事をなんでもやりたがる。

侍従のナダルさんはあんまり止めないけど、根回しや調査に奔走してるみたい。

新人教育もしてるとかでイリーニア様と同い年なのに10才更けて見える。


最初は冤罪事件の元凶で、あかの惨劇の主犯の息子で密告者なので皆、最初は軽蔑していた。

今はイリーニア様の突飛な行動の犠牲者として同情されている。

しかもイリーニアが好きなのを必死に隠してる。(使用人にはバレてる)


ああなる・・・・とちょっと哀れを誘うわ。」


「何々?」


休憩室で余ったクッキーを食べてると同僚達が休憩に入ってきた。


「ナダルさんよ。」


「あー、イリーニア様全然気付いてないもんね」


「最初は犯罪者の癖にって思ってたけど、あのイリーニア様に振り回されてるのみるとなー」


「そうそう。俺も最初はムカついて蹴り入れたこともあったけど、今は頑張れって時々心の中で応援してる。」


「この前領地に戻った時、沼に咲く花を取ろうとして落ちかけたイリーニア様庇って沼に落ちてたし。山に朝日見に行って眠ったイリーニア様おんぶして下山したし。」


「あーあの疲労困憊してるナダルさん、死相出てたもんね!」


「イリーニア様、この前剣を作りたいって言ってた」


「おお、それで鍛冶家に何度も出入りしてんのか!」


「職人の説得って大変だからねぇ」


「イリーニア様もちょっとは好意持たれてるって気付いても良さそうなのにね。」


「結婚初夜に暴言吐かれてるから、好意を持たれてるって思わないんじゃない。」


「溜まってそうだから、この前娼館で奢るって言ったら笑顔なのに背景ブリザードで『ありがとうございます。今のところ必要ありません』次言ったら殺すって目をされたぞ」


「不能じゃない?」


「イリーニア様が湖で落ちちゃった時、助けた後に前屈みでどっか行ってたわよ。」


「何それ!笑えるっーーー!」


笑っちゃいけないけど。

ブブッ!

ナダルさん単体だと有能で近寄りがたいんだけど、イリーニア様が関わると哀れになっちゃうんだよね。


「このままだとナダルさん童貞のままなんじゃない。」


「えっ、不貞してたんだろ。童貞じゃねーだろ」


「違うわよ。精神的童貞。だってイリーニア様に告白する勇気無さそうじゃない?かといって、他に行く気もなさそうだし。」


「言えてる。異性として見ると情けなさ感漂ってて、男だろ!って背中叩きたくなるよね!」


「最近は草臥れてきてるしね~」


「中身おじいちゃんじゃない?」


「おい、お前ら言い過ぎだぞ」


「えー!でもあの2人見ててイライラしない?」


「まあな。男なら押し倒す位してみろって思うよな。」


「無理無理。普段はイリーニア様に触るのも躊躇ってるもん。」


「手を繋ぐ頃にはほんとのおじいちゃんになっちゃうんじゃない。」


「言えてる~」


皆で笑ってたら、執事長が入ってきたから、それぞれ仕事に戻った。









「気にしないように。ただの戯れ言です。」


「·····仕事に戻ります。」


そう言って去っていく後ろ姿は確かに草臥れていた·····。

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