『ところばらい』
やましん(テンパー)
『ところばらい』
『これは、フィクションです。』
裁判長
『判決。主文を言い渡します。やましん、地球、ところばらいとする。』
ざわざわざわ
やましん
『ちきう、ところばらい…………』
裁判長
『判決理由。やましんの生き方には、前向きの要素がなく、常に後ろ向きである。政府の決めた事柄に、しばしば、批判を行い、他の悪例となり、とくに、子供たちの教育には、障害である。また、禁止された行為をしばしば行うなど、地球に存在する限り、それは変わることはないと、思量される。よって、公序良俗を守り、社会の安寧秩序を、保つためには、ところばらい以外に方法がない。』
やましん
『なんで? じたくで、フルート吹いただけだ。カルメンの間奏曲だ。何が悪い。おうた、歌っただけだ。』
裁判長
『人心を乱すのだ。音楽は、特に許可された国家演奏家資格のないものが、演奏しては、ならんのだ。歌もそうである。これが、国家の意志である。』
ざわざわざわ。
裁判長
『おしずかに? やましんは、終業時間後ではあるが、職場の脱衣ルームで、歌を歌った。『さあ、太陽をよんでこい。』と、『牧場の朝』である。自宅で、フルートを何回も演奏した。これは、重大な違反行為である。これらの違反行為に対し、たしかに、いくぶん、うつ状態であることは認められるが、違反行為を認識できないほどとは思えない。また、その他に、汲むべき事情があるとも判断できない。よって、そう、申し渡す。なお、移住については、宇宙移住局が十分支援するよう、裁判所として要請する。以上。で、ここからは、裁判長の意見であるが、やましんさんよお、ところばらいの先は、自由に選んでよろしい。場所によっては、楽器の持参も、許可します。生きにくい地球なんかより、もっと生きやすい場所があるよ。余生を楽しんでください。まったく、こんな地球に誰がしたのかねぇ。てやんでぇ、あ、これにて、閉廷。』
やましん
『さ、裁判長……………』
・・・・・・・・・・・
えっちらおっちら、『宇宙ところばらい船』の船頭さんは、しゃがれごえで歌を歌いながら、粒子波動櫂を動かした。
ひとこぎ往復で、0.03光年進むのだ。
しかも、だんだん早くなる。
『あ、あ〰️〰️〰️〰️、ふねは、ゆくゆく、銀河の海よお〰️〰️〰️〰️😃せんどさんは、なくなく、あわ〰️〰️ ところばらいは、浮き世の波よ、ともになげくや、宇宙かもめよ、お〰️〰️〰️〰️。はい。はい。』
太陽系を、遠く離れた、小さな赤色矮星、アーカンタレ、は、しかし、プロキシマ・ケンタウリよりも地球に近く、三光年ほど離れたところにある。暗く、寂しく、侘しい。
太陽が出来たときの、妹か弟だったかもしれないが、証明はできていない。
あまりに暗いので、なかなか、見つからなかったのだ。
この周囲を、人工惑星が回っていることが発見されたのは、比較的近年である。
しかし、こいつは、地球人が作ったのではない。
正体不明の何かが、遥かな過去に作ったとしか分からない。
いまは、地球人が、移住地として利用している。
生活は厳しく、簡単ではない。
自発的に移住したのではない、ところばらいになった人は、本村とは、別の村を作っている。
しかし、たいした制約はなく、人口密度は低い。
楽器をへたくそに演奏するも、歌を歌うも自由にできる。
地球は、個人の距離があまりに近くなりすぎたのである。
多くの土地は海に沈み、150億の人口が、北アメリカの半分くらいの土地に押し込まれている。
間もなく、大量移住が始まることに、なっている。
そのための、巨大宇宙船は、地球の軌道上で目下、鋭意、作られていた。
はたして、上手く行くかどうかは、やってみないと分からない。
かなり、粗雑な作りだからである。
やましんなどのようなやり方のほうが、確実で、安全だったのだ。
🌞ヤレヤレ
しばらくして、丘の上で楽器をやっていたやましんは、見たことのある人が近寄ってくるのを見た。
『裁判長さん。』
『やあ、やってますな。ぼくはね、罷免されたよ。で、ここを選んだ。また、よろしく。あ、そうそう、さっきニュースがはいった。第1移住船は、まず火星を目指したが、あとちょっと、付近で、なにかにぶつかって、ばらばらになったらしい。気の毒になあ。第2移住船は、来月出発だが、延期になるかもな?』
『そうなんですか。』
やましんは、ぼんやりと、答えた。
来月ったって、三年前の話である。
end 🙏
『ところばらい』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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