第2話

 案内? ありがたい話だが、それなりの距離があるんじゃないだろうか?


「確かに、結構距離はありますけど、そこはホラ、店員サンの自転車に乗っけてもらうってことで」


 二ケツってことか。


「にけ……違います! 二人乗りです!! えっちだなぁもう!」


 エッチ……なぜだ。


「コホン。とにかく、私が後ろに乗ってナビしてあげますよ。これが世に言う“後方ガイドナビ勢”というヤツです」


 そんな勢は初耳だ。厚意はありがたいが……。


「え、行かないんですか? なんで? あ、荷台に乗ったら私のおしりが痛いんじゃないかとかが心配ですか? 大丈夫ですよー、こう見えても私、それなりにおしりのお肉はありますんで!」


 言いながら、くいっとお尻を向けてくる。


「ちょ、ちょっと!? み、見過ぎじゃないですか? そんなにまじまじ見るものじゃないですよ……えっちすぎです、もう!」


 そんなつもりはなかったのだが、慌てて謝罪する。


「わかればいいですけど。で、まあそういうことで遠慮しなくても……いや、危ないから? ああ、はい、まあ……それはそうですね」


 どことなく残念そうな声色で呟くが、


「……あーあ、せーっかく女子高生と自転車二人乗りできるチャンスだったのになー。こんなアオハルイベントそうそうありませんよ? 惜しいことしましたねー、店員サン?」


 次の瞬間には、わざとらしくおどけてみせた。


「ゆったりと走る自転車。そよ風が後ろに座る少女の匂いをそっと運んできて……においぃぃ!?」


 何やら語り始めたと思ったら、突如叫び声を上げる。


「ウソウソまってまって、ムリムリほんとムリ!! そんなの早すぎるしっていうかぜんっぜんなんの準備もしてないしうきゃぁああ!!」


 よくわからないが、そんなに生理的嫌悪感を覚えるほどなのだろうか……。


「ふえ? 店員サン、なんかしょんぼりしてません? ……いやいやいや、違いますよ? 店員サンが気持ち悪いなんてそんなこと絶対ありません! なんだったら存分に嗅いでもらいたいです! ……その、将来的には。とっとにかく、私サイドに問題がありよりのありひらなんです!!」


 問題? 体臭がすごいとかだろうか? そんな感じはまったくしないが……。


「ちょちょちょちょ!? 何するです!? なんで近づくです……あああああくんくんしてるくんくんしてるくんくんしたあああああ!!!! やああああああ嗅がないでえええええええ!!」


 確かめてみたが、特に変な匂いはない。それどころか……


「ああああ……どうしてこんなことに……出かける前にお風呂入っとけばよかった……もうこれで汗くさ女確定ルート……ん? いい、匂い、ですか?」


 落ち着きを取り戻したものの、訝しむ様子を見せる。


「ええと……その……店員サン、って……嗅覚について特殊な性癖をお持ちでらっしゃるというかその……端的に聞きますけど……」


 慎重に言葉を選ぶ様子だったが、意を決したかのように告げた。


「汗フェチ、ですか?」


 全力で否定する。


「違う……じゃあなんだろ……あ、これか。シャンプーの香りですね」


 小指と薬指を、そっと髪の間に通している。


「それなら……納得です。店員サンがノーマル寄りで、よかったです、うん」


 ほっとした表情を浮かべ、


「そっか、これ、いい匂い……なんだ。えへへっ。あのシャンプー、もう一生分買っとこうかな……?」


 何やら嬉しそうに微笑んでいる。


「それじゃ、えっと、はい」


 言いながら、半歩だけ近づいてきた。


「お好みの香りでしたら、その……楽しんでください。あ、違いますよ!? 匂われフェチとかじゃないですからね!? ただの……えと、暇潰しのお話に付き合ってもらってる、お礼です」


 どう反応したものか……とりあえず、曖昧なお礼を伝える。


「えっへへー、どういたしまして。でも……これなら二人乗りしてよかったのになあ」


 もとより、匂いで断ったわけではなく……


「あ、そっか。危ないからでしたよね、うんうん。それにしても……店員サン、マジメですよねー。普通は“まあいいやー”なーんてなりそうなモンなのに。それに私の身体を心配してくれてるってことだから……優しいですよね、うん」


 そうだろうか……大袈裟な気もするが。


「ん? これくらい普通? あはは、マジメで優しい人はだいたいそう言いますよ。それにね、私、ほかにも知ってるんです」

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