6 魅来(みく)さん
今日また新たに、新人さんが入ってきました。
魅来さんです。
彼女は恥ずかしそうに俯きながら僕達に挨拶します。
全国で募集をかけて応募してきた劇団の子らしいのですが、その大人しい態度に人事ながら心配になって来ました、大丈夫かな? 彼女。
彼女とのお芝居はデパートのシーンから入ります。デパートはセットです。
側近と言う男の人達が何人か入ってきて挨拶をしました。
白連さんという人とも初めて会って握手しました。
「はじめまして!よろしく」
白連さんは中国系の人なのですが、とても背が高くてハンサムでびっくりしました。
役者暦も長くて僕より年上っぽいです。
女性相手の芝居は今回初めてなので僕も緊張してしまいました。
彼女はとても可愛らしい人で、ストレートの髪がとても奇麗です。僕とのシーンも多いのでとても嬉しいです。
まだ緊張しているらしく、僕が「大丈夫ですよ」と言うと彼女はにっこり微笑みました。
ああ、可愛いなぁ~魅来さん。
もっ、もしかしてこれは……恋の予感?!
な~んてそんな簡単に恋が芽生えたら苦労はしませんよね。
でも、彼女は役の中で僕にぞっこんらしいです!
くぅぅ~瑠璃さんとはヤレるし、彼女には惚れられるし!
最高だ!! ヘタレなヤル役万歳!!
もっ、もしかしてっ……彼女とも……!!
そう考えると僕の心臓は高鳴ってしまうのでした。
ああ~やっぱり可愛いよな~魅来さんっ♪ と思ったら、やはり侮れません、魅来さんも役者です!
撮りに入ったら途端にキリッとした表情になり、セリフも品がある上にハキハキし始めました。
驚きです!!
彼女の役は女宮殿にいる上級女性の役です。
この世界は女性の絶対数が少ないので女性が崇め奉られているのです。
その上その女宮殿に入っても階級が決まっていまして、能力や美貌であればあるほど上に行けるのです。
もちろんその試験もあるんです。
要するに上に行けば行くほど貴族並に地位も名誉もあると言う風に理解していただければOKです。
というわけで彼女の役の魅来さんはその地位や名誉もあるということで、品があり、美貌の持ち主でプライドも高いと言うわけです。
そんな人がなんで僕なんかに恋してしまったのでしょうね。
いまさらなのですが、僕はなんと生物研究員なのです、あれですね地球の絶滅しかかっている動物や植物を救うために日々研究を続けていると言う……。
だけどそんなこともできるのもお金持ちの家の出だからというのもあるのでしょう。
僕は懸命にお金持ちな感じで行こうと努力はしているけれど、監督曰く「あ、別に君変わり者だから、そういうのは気にしないでいいよ」とかあっさり言われてしまいました……。
変わり者なんですか? 僕……。
ま、いいか、変わり者でも! そういう方が面白そうだし。
なんと言っても金持ちそうに見えなくていいというのが、僕にとってはまり役みたいです。(はぁ……タメイキ)
今週は今まで撮れなかった魅来さんとのシーンをまとめて撮ります。
それから、瑠璃さんと出かけるシーンを来週の頭に取ります。こうして、いよいよ4月の放送時間が差し迫って来ました。しかし、実際の放送より、その後のブルーレィで稼ぐそうです。
結構こういうの沢山の人が買うみたいですね。僕はぶるーれぃなんて持ったこともありませんけど。
だいぶ先まで撮りは進んだと思われますが、監督は4月末までに3部の頭までは行きたいと張り切っています。
撮影も終り、帰ろうとしてムーンを探すと、またいません。
あの馬鹿犬!!
一通り今度は『月灯りの絆』のスタジオを見渡したのですが見つからず、ひょっとして今度こそ、隣りのスタジオに行ってしまったのではないかと慌てて隣のスタジオまで行き、探していると、またしても人とぶつかってしまいました。
突然僕の目の辺りに、彼の額がぶつかって火花が散りました! 知ってますか? 火花って本当に散るんですよ! バチって!!
そんなことに感心している場合ではありません(><)
「うあ! いたたた!ごめんなさい」
「あ~、ごめんなさい~ててて……」
顔を上げると、あ! 魔法使い田中健太郎役の健太郎さんでした!
「あ、あの、この間はどうも」
僕が声を掛けると健太郎さんはふと僕を見つめて「あの……どなたでしょうか?」と言いました。
忘れられている……。
そりゃそうですよね、彼とは知り合いでもなんでもないのですから!
「あ、あの……以前もここでぶつかりませんでした?」
僕が恐る恐る言うと、しばらくの間健太郎さんは考えこんでいました。
「ああ!」
ぽんっと手を打って健太郎さんは何か浮かんだようです。
「どなたでしたっけ?」
がくり。
手を頭に乗せて健太郎さんは笑います。
やはり記憶にないらしい……。
スタジオにある喫茶店は飲み物がとても安いです、セルフサービスで飲み物を受け取って、 僕は150円のコーヒーを、健太郎さんは200円のミルクティーを選んで席に座りました。
「いや、すみません思い出すのに時間がかかって。本当に何度もぶつかってすみませんでした」
「いえいえ、こちらこそ、なんだかお忙しいのにすみません」
「いいえ~、僕も一休みしようと思ってたところだったので」
健太郎さんの肩には生きたカラスが乗ったままです。
「あの……それ……」
「これですか? これは今日はええと……」
そう言うと健太郎さんはカラスの足についている番号を見ます。
「今日は5番目のカー助です」
「はぁ……」
「ああ、カラスは一匹だけだと、その日の機嫌もあって上手く撮影できないんです。だからカー助としてスタンバッテいるカラスは全部で13匹います」
「へぇ~~!」
「いつ一匹いなくなってもいいように!」
笑顔で健太郎さんは話します。
いなくなってもって……。
あ! そう言えば僕はムーンを探していたんだった!
「ご、ごめんなさい、健太郎さん、僕、犬探さなくちゃ!」
「え? 犬?」
「はい、ゴールデンレトリバーなんです」
「ああ、あのワンちゃん!」
「え?」
「それなら魔法使い田中健太郎のスタジオに行きましょう!
さっき可愛いワンちゃんがいてみんなで頭撫でていました。
首輪ついているから誰かの持ち主なんだろうと思って連絡……。
あ! 僕その連絡するために出て来たんだった!」
僕はふきだしてしまいました。僕らは自分達のボケぶりに、2人でしばらく大笑いしてしまいました。
魔法使い田中健太郎 のスタジオに行くと、ちゃっかりムーンの奴が出演者の人達に頭を撫でられたり何かもらって食べてました。
このやろ~!!
僕の姿を見つけて一瞬喜んだムーンも、僕が不機嫌なのを知り少し身体を細くします。
魔法使いの格好をした女の人が特にムーンを可愛がってくださったみたいで。
「すみません、本当に……」
僕は申し訳なく頭を下げました。
「いいえ~! 可愛いわんちゃんでここでのアイドルになってたんですよ~! あなたの飼い犬だったんですね~!
いいなぁ~大型犬、うちマンションだから飼えなくって!」
「うちアパートでも無理矢理飼ってます。肩身狭いですよ~~」
「へぇ~!!」
奇麗なOL風の女性もムーンの頭を撫でてくれています。小さな女の子が面白がってムーンにからみついています。
くっそ~!! 女性にばかりもてやがってこのやろ~!
もうメラメラしています。ムーンに嫉妬です!! 犬だからってそれをいい事にてめ~!!
いいなぁ……。
「健太郎さん、ありがとうございました~」
僕が手を振ると出演者やスタッフのみなさんが手を振ってくださいました。
なんだかこの現場いい雰囲気だなぁ~。
今日も僕はムーンと家に黒ずくめの男達がいないことを願いながら、家路に着きました。
* 魔法使い健太郎 は当時サイトで連載されていて、今でも仲良くさせていただいている友人の作品です。
この時はコラボした形になりました。
NEXT さよならムーン
今日のご飯
茶碗蒸(スタジオにある電子レンジで暖めた)
おこわご飯、と餃子のお弁当。
麦茶。
シュークリーム(魅来さんからの差し入れ)
ひよこ(お菓子)魔法使い田中健太郎 のスタジオの出演者さんから
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます