4 先生の家へ2

 僕らは出てきたお手伝いさんらしき人に屋敷の中に通されると、部屋にそのまま向かいました。


 部屋の中を見ると洋室で所々にアンティークの本棚やテーブルがあり、その奥に書斎が見えてきました。


「先生調子いい時は、自分でインターフォン出るんだ」


 瑠璃さんがそう呟きます。


 書斎の中にはパソコンがあり、先生らしき人が後ろ向きで座っていました。


 


 あの……花園先生?




 花園先生はくるりと振り返ります。


 細身の色の白い男の先生で、髪の毛は長めで後ろの毛が少し肩にかかっていました。


 結構いい男です。




「……瑠璃くん元気?」


「はい先生」


 瑠璃さんが笑顔で先生を見つめます、何故か顔を高揚させていました。


 憧れている人を見るような眼差しですねぇ。


「あのっ、こちらが、守さんです、先生」


「はっ、初めまして」


「ん。写真で見た」


 僕が頭を下げると、先生は僕をちらっとだけ見ただけで、後は瑠璃さんの方に視線を戻してしまいました。


 素っ気ないもんです。


 僕に対しては挨拶も何も無しです。




 なんだ? 僕も名指しで呼ばれたはずなのに、全くシカトっぽいな……。




 しばらく瑠璃さんと先生だけで僕のわからない話が続いて、しまいには先生は瑠璃さんだけを誘って、側にあるパソコンの前に向かってしまいました。


「瑠璃、これ君が欲しがってたゲーム」


「えっ、いいんですか~!!」


「……あげる」




 瑠璃さんはそのゲームを手に取ると、満面の笑みを浮かべています。




「ここで少しやってみる?」


「はい!」




 僕はなんだか眠くなって来ました。


 2人が訳のわからない会話を繰り返すので、いつの間にか窓の外をぼんやり眺めてしまいました。


 外の庭は枯れた柿の木が少しだけ葉をつけていて寂しそうです。




 ああ、僕はこんな所で何しているんだろう。


 ちょっと肩透かしをくらったようで淋しいです。




 ふいに誰かに見つめられているような気がして、僕は、はっ、としてその方向に視線を向けました。


 でも僕の視線の先には先生とパソコンゲームに夢中になっている瑠璃さんがいるだけです。


 そしてそのまま30分くらい時間が経過してしまいました。


 僕は出されたおかきと、お茶を頂く事にしました。


 時折瑠璃さんと先生の笑い声が聞こえます。


 相変わらず僕はシカト状態です。


 僕は茶碗に映った自分の顔を覗き込んだりして心でため息をついていました。




 先生に僕、嫌われたかなぁ。


 やっぱり借金抱えていると、なにか貧乏臭さが滲み出るのかな……。


 そうだよなぁ~一本15000円もするワイン毎日飲むような人だからなぁ。


 僕なんて15000円もあったらそれで一ヶ月は暮らせちゃうよ。


 あ~あ、なんだかもう帰りたいな。




 ふと、また視線を感じて、今度は素早く視線を元に戻しました。


 先生がさっと画面に視線を戻します。




 ……先生?


 さっきから見つめていたのは先生なのでしょうか?




「ああ、ごめんね、守さん、俺ゲームに夢中になっちゃった!」


「あ、いいえ」


 ゲームに区切りがついたのか、瑠璃さんは先生に「後は家でやってみる!」と言うと窓の側に寄って僕を誘いました。


 僕はそのまま立ち上がり、瑠璃さんと窓の側に寄ります。さっきの柿の木の他に、庭には小さな池がありました。




 お手伝いさんが手入れをしているのでしょうか、庭の木々はそれなりに整っていて花が咲いていて綺麗でした。


 少しだけ、気持ちが和らぎました。




 また、ふと視線を感じて、僕が視線を部屋に戻すと、今度は先生が真っ直ぐこちらを向いていて僕は焦りました。


 瑠璃さんに一度視線を向けたのですが、瑠璃さんは庭を見るのに夢中です。


 また部屋に視線を戻すとまだ先生は僕を見ています。


 先生の視線は僕の全身を見ているようです。




「あ、あの……」


「……うん、わかった」


 先生は一言だけそう言うと、僕に手を差し伸べて来ました。


「守くんね、よろしく!」


「え?」




 僕は恐る恐る手を出して先生と握手しました。先生の手は細くて指が長くてな気がしました。


 瑠璃さんが僕に振り返って言いました。


「凄い! 守さん、先生に相当気に入られたね!」




 なんじゃそら!!




 訳のわからない挨拶が終わると、先生は早速台本を書きたいからと言い、僕達はそのまま家を後にしました。


 先生と殆ど何も喋っていません。一体何だったのでしょう。




「守さん、先生はすごくデリケートな人で、相手が気に入らないと視線も合わせないんだよ? 普通の人にでもね。それなのに先生最初から守さん意識して、守さんが向こう向いている時に何度も見てたんだ! これって凄いんだよ!で、徐々に慣れていく人なんだけど、普通の人で5、6回くらい会って慣れてくるの。俺でも2、3回かかったんだよ? それが今日会って初めてで会話して握手までするなんて!」


 瑠璃さんは一人で興奮していました。




 謎です。


 一体どんな人なんだあの人。


 でも僕全然先生と会話してないよ、瑠璃さん。


 この世界はわからない人だらけです。






NEXT ハラハラ本番




今日の午後のおやつ




おかき、と緑茶。


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