3 先生の家へ1
こんにちは、守です。
今僕は有名なデパートの地下街にいます。デパチカですよ、奥さん、デハチカ!
色々な食材が溢れています、お年寄りから子供からそりゃも~みんな目を輝かせて見てしまうに違いありません!
どれもこれも美味しそうなお惣菜やら、お菓子やらで身を乗り出して見てしまいます。
そして欠かせないのが試食です。
ああ、このおせんべい美味しいなぁ~。この塩加減がたまりません……。
僕はこうして時々デパチカで試食をして日々の貧乏生活の現実を忘れます。
な~んてのは冗談でー。実は今瑠璃さんと一緒です。
今から『月灯りの絆』の脚本を書いている作家の先生のところに、僕らが名指しで呼び出されました。
2人で向かう途中に、先生にお土産を買ってから行きなさいという海倉監督の命令で、こうしてデパチカに来ているわけです。
ムーンはいつも大家さんに預けるわけにもいかず、今日はスタジオのスタッフさんが面倒を見てくださっています。
あっ♪このお団子美味しい~。
ええっ! 2つしか一つの串にないのに、5本で900円。
高いなぁ。
どおりで美味しいはずです。
ここは有名店のお菓子ばかりだから、当たり前なんですけどね。
「先生は甘党だから、お団子にしよう」
瑠璃さんはどのお団子を買おうか迷っています。
「お団子のみたらしとあんこ、みそのを5本づつセットでください。それからきんつばも!」
瑠璃さんが細くて白い手でお団子を指し示すと、瑠璃さんの顔を見てはっとした販売員が頬を赤らめてそれを包みます。
ああ、どこに行っても瑠璃さんはみんなをうっとりさせるんだなぁ。
白い肌に自然に染まった赤い唇、その唇はみずみずしくて。
なんでお化粧も特にしてない感じなのに、こんなに綺麗なんだろう。
男の人に綺麗だなんて失礼なのかな。でも瑠璃さんは本当に綺麗だと思います。
このデパートの表で2人で待ち合わせした時、瑠璃さんが僕を見つけて走りよって。
その時の周囲の反応ときたら。
えっ? なんでこの男にこの彼女? みたいな目でした、少なくとも僕はそう感じました、はい、はい、すみませんねぇ。ぱっとしなくて。
瑠璃さんはパンツをはいているのに、可愛らしい一厘の花のように、現れた時周りに花が咲きました。
なんて言うんでしょう、生まれながらスターというか。
花があると言いますか。
つくづく男である事がもったいなさすぎです。
でも周囲の羨んだ空気で僕はなんとなく自慢気な気持ちになり、僕に微笑みかける瑠璃さんと周りの空気に気分がよかったです。
えへへ、もう寝ちゃった仲だもん、僕達。ドラマの中でだけどね。
ヤル役万歳!
この際瑠璃さんが男ということは置いといて。
軽くランチをすませ、もちろん仕事なので撮影所持ちです。こうしてデパチカに来たというわけです。
さて、買い物も済ませて、お菓子と先生のお気に入りのイギリスの赤ワイン一本15000円を買うと、僕らは駐車場にまで行きました。
「あれ? 瑠璃さん、今日は一人?」
「ん? そうだよ、何で?」
「だって、護衛がついてないと危ないんじゃ」
「ん、今日ははどこのスタジオにも行ってないから平気!」
目の前に止まった青いカペラのキーを車に向けるとカチリとドアが開きました。瑠璃さんを僕は不思議そうに見つめます。
「さ、乗って」
「ええっ! る、瑠璃さんが運転するの?」
「しちゃ、いけないの? あ、そうだっ、ごめんね、普通の常用車で、ママが若葉マークにはいつでもぶつけていい安めの車にしなさいって言うから、これにしたんだ」
いや、そうじゃなくて。
って、この車新車だから150万とか200万とかしませんか?
「ブルーとグリーンがあるんだけど、今日はブルーにしたの」
はい、はい、そうですか……。
「守さん免許は?」
「18の時に合宿で取りましたけど」
「合宿?」
「その方が短期間で安く取得できるんですよ」
「へぇ~そうなんだ~!」
一抹の不安を覚えながら僕は助手席に乗り込みました。
そう言えば車の事故で一番死亡率が高いのって助手席だよな。
なんて不吉なことを考えながら、僕は黙ってシートベルトを締めました。
少し気分を明るい方に持っていこうと瑠璃さんの方を見た僕は驚きました。
瑠璃さんの顔が真剣そのものだったからです。
「あの、瑠璃さん……」
「じゃ、行くね、俺に命を預けてくれ!」
「免許。いつ取ったの?」
「ん、先月」
「……」
せっ、先月ぅぅぅぅう~~!
瑠璃さんは嬉しそうな顔をすると、派手なアクションで、サイドブレーキを解除しました。
車はエンジンをかけるともの凄い唸りをあげます。
「あ、あの、瑠璃さんふかしすぎじゃ」
「黙ってて!」
突然車が前にスピードをあげました! あわわわ、あ、あぶっ! ぶつか!
いきなりのスタートダッシュに、心の準備ができていない僕は口から心臓が飛び出るかと思いました。
車は大きな駐車場で、前に車がいなかったからいいようなものの、そのままその車はスピードも落さずに急カーブしました。
「るっ、瑠璃さん、スピードおっ、落とした方が、うわぁ!」
車は駐車場の出口の料金場で急停車します。
上手いんだか下手なんだかわからないいい!!
僕は変な汗をかき始めました。
そしてそのまま、車は恐ろしい事に一般道路に出てしまったのです。
「あ、先生の家の場所ナビゲート入力するの忘れた!」
瑠璃さんはそう言うと信号で停車した時に慌てて先生の電話番号を入力しました。
電話番号さえ入れればカーナビが家まで案内してくれるのです。
「るっ、瑠璃さん、信号、青、青っ」
「あ~もぉ! 守さん、ここ電話番号いれてエンター押して!」
そう言うと僕に説明書を放り投げて、男勝りにハンドルを握ります(男ですけど)僕は言われたまま慌てて電話番号とエンターキーを押しました。
ええと、これで。OKっと。
〃この先の信号を右に曲がってください〃
カーナビが指示のアナウンスをします。
「瑠璃さん? 今左に曲がりませんでした?」
「そう?」
「瑠璃さん? 今、一つ、道飛ばしませんでした?」
「そうだっけ?」
「瑠璃さん? 交差点では左右よく見ないと」
「黙ってて、気が散るっ!」
「……はい、すみません」
だって注意しないと、僕の命が!
「くそっ、むかつくんだよな! あの前の車、のろのろしやがって!」
「……」
「どけどけ! ノロマ!」
「……」
「あっ、横入りしやがった! ちくしょう!」
瑠璃さん、人格違ってませんか?
こうしてガンガンスピードオーバーしながら、車は先生の家の前に着きました。
車が目的地にやっと着きました。僕はドアを開け、よろよろしながら降りました。
僕は生きている。ああ、神様ありがとう!
涙で感動して前が見えない。生きてるってすばらしい!!
目の前には大きな家が建っていました。
先生の家は和風の今時珍しい平屋のようです。
瑠璃さんが玄関先でインターフォンを鳴らすと、「んーあー来たのー?」という男の人のかったるそうな曖昧な受け応えが返って来ました。
来たのー? って。呼んだの先生だし。
「来ました、先生」
瑠璃さんが明るく応えると、しばらく応えが帰ってきません。
30秒くらい経ってからでしょうか。
「あそう」
と応えが返って来ました。
……先生? 寝てます?
僕は不安になりながら、瑠璃さんとその純和風な家の前に立っていました。
ふと瑠璃さんが可愛らしい丸い頭をくるりと廻してこちらに笑顔を向けました。
「先生、今日絶好調みたいだね」
今のが絶好調なんかい!
NEXT 先生の家へ2
今日のご飯
ランチで食べたサーモンサンドイッチとコーヒー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます