3 本番

僕は途方に暮れました……。だって相手は男ですよ、男!

 男相手にS〇Xなんて誰が考えますか?!

 いくら白鳥さんが綺麗でも、そんな、そんなショッキングなこと僕は耐えられません!!

 カメラが廻っているのに、僕は躊躇してしまいました。

 最初はあんなにノリ気だったのに……。

 仕方なくカメラは停止、しばらく休憩になりました。

 僕は控え室でもらえるコーヒーを紙コップに、それを片手にロビーにあるソファに座り呆然としていました。

 白鳥さんは心配そうに僕に近付いて来ます。

「大丈夫? あのっ……」

「……」

 僕は俯いて言葉も発せられませんでした。

 そのうち向こうからスタッフと一緒に歩いてきた監督が僕の前で立ち止まります。


「守くん……」

「男相手だなんて、僕、聞いていません……」

「うん、まぁ、言ってないしね」

「どうして……」

「君さぁ、台本ちゃんと目通してる?」

「え?」

「君はこの作品を単なるア〇ルトの拡大版とか思ってない? このドラマにはね、それだけでない人類の永遠のテーマがあるんだよね? それとも。もう辞めるか?」


 その声を聞いて僕の目の前が真っ暗になりました。


 僕は側に立っている白鳥さんを見上げました。

「俺にとっても大役なんだ、いい加減な気持ちで始めたわけじゃないよ。俺は頂いた台本全部読んだ。読んでそれで引き受けたんだ。でも……君がもし嫌なら辞めてもいいと思うよ。だってこれは中途半端な気持ちではできないもの。とりあえず、それが俺の気持ちだから」

「白鳥さん……」

 その時の僕の表情は情けなかったように思います。

「そんな気持ちで演技されても俺も迷惑だしね」

 僕は彼の真っ直ぐで真剣な眼差しに息を飲みました。

 僕はこの作品は申し訳ないけれど、もっと下品なものだと思っていたんです。

 でも、ここまで真剣にみんなが取り組んでいたんだと。いや、白鳥さん自身が取り組んでいるんだと、その目を見ればわかることです。

 それに何だかんだ言っても、僕には選択なんてないんです。

 これを失ったら、僕はまた路頭に迷うんだから。


「僕はね、ただそこに君がいたから君を適当に選んだわけじゃないんだよ?」

 海倉監督が静かに低い声で話し掛けました。

「君の穏やかな顔や、人のいいところや、申し訳ないが今の状況で決して投げ出したりいいかげんな事をしないとそう確信したからなんだよ? 誰でもできる役じゃないんだ、君だからできると思ったんだ」

 海倉監督も真剣です。

 僕は2人のその表情に心打たれました。

 男を抱くなんて初めてだけど、相手は真剣な白鳥さんなんだ。

 そして監督も!!

 僕はゆっくりと首を縦に振りました。

「ああ、よかった! (ほら、瑠璃くん、彼は単純だろ? だから選んだんだよ?)」

「うん、本当によかった! (はは;監督も人が悪いなぁ、こんなに純粋な人利用して!)」





 真っ暗な部屋、用意されたローション、必要な器具。

 白鳥さんが僕のそれを口に含んでやさしく舐めてくれました。

 男に舐められるなんて初めて。

 いや、誰かに舐められるなんて初めてでした。


 経験はあるんだ念のため。

 高校の時に一回だけだけど、しかも途中。


 でも白鳥さんは可愛くて綺麗で、上手くて。

 僕は無我夢中で白鳥さんを抱きました。

 白鳥さんが周りの人に聞こえないようにゆっくり僕に色々指示をしてくれて。

 僕達はそこで初めて一つになりました。

 なんていうか、もう。男なのに凄くいいんです。

 僕は本能の赴くままに腰を突き入れました。もう、その時の僕は完全に男でした。

 白鳥さんは確かに男の身体でした。でも、しなやかで、やさしくて……。

 声も甘くて、艶かしくて。そこもとてもとても暖かくて。


 ああ、もう正直……よかったです……。

 神様……癖になったらどうしよう……。



NEXT 本番終了後


今日のご飯


ロケ弁。(から揚げ弁当デザートにみかん付き

ムーンに5つあるうちの3つもから揚げ取られた!!)

緑茶。

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