一章の現場から
1 売れない俳優
ども、みなさま初めまして、春原守という者です。
しがない役者です。
初めての撮影と初めての現場。渡された台本が、重く感じられます!
とても僕は緊張してしまいまして、最初のシーンは簡単なセリフもいきなり舌噛むし。
「おっ、おひっ……」
って、どもってしまいました。緊張しすぎてダメでした。
今、白鳥瑠璃さんがセットの橋の上で撮影をしています!
白鳥瑠璃さんはこの世界では超売れっ子俳優さんなのです、はい。
白鳥さんには色々アドバイスとかフォローをしてもらい、とても助かっています。
僕の憧れの人でもあります。
実際初めて会って、あまりの綺麗さに感動しました。
肌は白く、名前と同じくエメラルド色の瞳に、ブルーの短い髪の毛……。
そして頬にかかる内巻きの髪の毛が特徴的で存在自体が儚げで守ってあげたくなるそんな人です。
僕は俳優の養成学校を出たものの、ロクな役にありつけずに、あ、家は川○です!
住まいはボロイアパートなんですけど、なんとかやっていました。
けれど……。
ところで、何故売れない俳優の僕がこの役をもらったかといいますと、2、3回しか会ったことがない自称プロダクション社長の人と飲み屋に連れて行かれ、意気投合してそのはずみにうっかり僕が保証人になってしまいました。
ところが、社長さんの会社が突然倒産。その結果僕が借金を背負ってしまいました。社長は未だに行方不明です。
それのせいで郷の両親にも顔向けできず、借金の取り立ても日に日に横暴になってゆき、僕は飼っている犬、ゴールデンレトリバーのムーンと共に途方に暮れながら公園で野宿していました。
そこでその公園でたまたまベンチの隣に座っていた男の人に事情を吐露したくなり、ついうっかり口を滑らすと、その人がいきなり僕をドラマにスカウトしたのです!!
最初は前に騙された社長のこともあって、全然信用できなかったんですけど。
どうやら監督は僕に一目ぼれしたらしくて、「この役は君にしか出来ない!」とか言うんです。
僕はそんな切羽詰っている状況なのに、犬とのんびりしている姿が全然危機に緊迫感がないらしく、それゆえ君だったら絶対できると。
君に惹かれたそうです。あと伸び放題のこの茶髪に……。
ってただ単に髪の毛切るお金がなかっただけなんですけど。
僕はどんな役でもいいから、きっかけがつかめた事が嬉しくて、内容もロクに聞かずにOKしてしまいました。
そうするといきなり監督が懐から厚みのある封筒を放り投げ、僕は慌ててそれを手にしました。
僕がそれを覗くと、中にはさ、札束が!!
「あっ、あのっ、これっ!!」
「うん? 前金だよ、とにかく家に帰って落ち着きなさい。借金もこれで少しずつ返して行けばいい」
僕は海倉さんが天使のように見えました!!
ムーンは捨てられていた所を僕が拾い、アパートの下で何度も頼み込んでやっと飼わせてもらったのですが、彼も撮影所に連れてくるという条件でした。
僕が家に戻ると案の定取り立て屋が家の前にいましたが、僕はなんとかその封筒を渡すと、ごつい顔つきの恐い取り立て屋は一応に納得した様子で帰って行きました!
ああ、神様ありがとう!
今日の僕は暖かなお布団で寝る事ができるのですね。
僕のような恐らくたいしたことない役のものにまであんなお金をくださるなんて。
ああ、生きててよかった!
どんな端役なんだろうと翌日喜んで現場に行くと、なんかみんなお金持ちそうで、とても身綺麗で、車で乗りつけている人も多くて、徒歩は僕だけでした。
突然連れて歩いていたムーンが僕の手からするりと抜け出し、首輪と紐をつけたまま撮影所の奥に走ってしまいました。
「こっ、こら、ムーン!」
僕の後方から赤いロメオが滑り込み、目の前で止まります。
サングラスをかけた、紫の髪のスーツをパシッと着込んだ男の人が颯爽と降りてきて、すっごくカッコよくて感動してしまいました。
現場に着くと、いきなり役者さん達が沢山揃っていて、僕を一斉に見ます。
僕は何か変だったかな? と背後を振り返ったりしたけど、後ろには誰もいなくて。
やっぱり、みんな僕を見ている。
うわぁぁぁ、やっぱり僕だけなんだか貧乏くさいからだな、きっと。やべ。
奥ではちゃっかりムーンがスタッフのみんなに打ち解けて、頭を撫でられていました。
「海倉監督、よく見つけて来たな」
先ほどのサングラスをかけた男の人が、スタッフの「おはようございます!」という掛け声に応じながら入ってきました。出演者らしき人も彼に頭を下げていたので、相当ベテランの方のようです。
その彼が僕に気づいて微笑みかけ、手を差し伸べてきました。
髪の毛より深い紫の瞳が鋭く、恐い人なのかな? と最初思ったのですが、口を開くと落ち着いた低い声で、僕は不思議と彼がそれほど恐くありませんでした。
「よろしく、ええと……」
「は、春原守です。よろしくお願いします」
「そ、春原くんねよろしく! 僕は滝川隆二。 そうそう、今回は役名と自分達の下の名前同じで行くんだって海倉監督の趣味だね」
「はぁ」
その時、奥にいた青い髪の女性が出て来ました、僕と白鳥さんが初めて会った瞬間です。
「あ、初めまして! 白鳥瑠璃です、春原守さんですよね?」
「あ、はっ、はい。よ、よろしくお願いしますっ」
僕を見る白鳥さんの表情が微笑みながら赤くなるので、僕は不思議そうに彼女を見ました。
「よろしく!」
周りにいるみんなが僕にやたらと声をかけて来きてくださるので、僕はなんだか照れくさくなりました。
だって、僕みたいな端役にみなさん声かけてくれるなんて。
みなさんいい人なんだなぁ。
そのうち、海倉監督が入って来ました。
「おはようございます」
「おっ、守くん来てくれたね!」
「じゃ早速だけど台本読みから行こうか!」
「あの……」
僕が手元に台本を持ってないことを言うと、「あ、渡してなかったっけ?」と海倉監督が呑気に言います。
彼が合図すると、他のスタッフの人が台本を渡してくれました。
主役の白鳥瑠璃さんや他の人の名前がその台本には入っていて、僕は自分の役を探しました。
「で、あのっ、僕は」
僕の名前がなかったので、恐らく通行人AとかBとかなのでしょう。
恐る恐る監督に聞くと、 「あ、その名前の入ってないセリフの所ね」と言います。
ええと、名前の入ってない所、あ、あった。
ふ~ん。僕は瑠璃さん助けるんだ。
へぇ~。
セリフがある役で僕は少しほっとしました。
あ、あれ?
あ、抱きしめて、キスして、え?
「ええええ!!」
僕は思わず声に出してしまいました。
「こっ、これっ、れっ! そ、そんなHなシーンがあるなんて知らない聞いてない、言われてない!!」
僕は全身から汗が噴き出して顔が上気しました。恐らく真っ赤な顔になっていたと思います。
そう言うと海倉監督は「え? 言ってない? おかしいなぁ……あ、でも君ヤル役だから大丈夫でしょ?」なんて気軽に言い始めます。
「それに、ほらお金ないとね? それとも。昨日の返す?」
うぐっ、痛い所を突かれた。
彼は僕がもう取り立て屋にお金を払ったのを見越してそう言う事を言うんだ!
ヤル役ったって。
僕はつい白鳥さんを見てしまいました。
白鳥さんは僕が見たのに気づくと恥ずかしそうに見返します。
かっ、可愛い女性だよなぁ、白鳥瑠璃さん。
こっ、これは、お金もらえる上に。
ううっ、でもまさかAV男優だとは。酷いな海倉さん。
でっ、でも、もう借金払ってしまったし。
う、うん、これも経験だよな、そうそう、ヤル役だし。
僕だって経験がないわけじゃないんだから。
それに白鳥さん可愛いし。
何度となく問答を繰り返した後、答の選択支のないことに気づいた僕は仕方なくこの役 神咲守 をやることになった。
大丈夫ヤル役だから……。
NEXT し、白鳥さん
今日のご飯(緊張してあまり食べられなかったけれど)
ロケ弁。(シャケ弁)
緑茶。
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