第2話:魔王に身バレしたからシバいてみた

 それから何日か経ったある日、『聖域指定』した外にまたもや見覚えのある紙包みと手紙が置いてあることに気づいた。

 前回は玄関前の軒下に置いてあったが今回は結界の力でここまで入ってこれずに外に置かれていたものと思われる。


 例のごとくまずは手紙から読む。

 内容は、訳あって玄関に置けなくなってしまったこと、知ってる人に同じ魔法を使えるやつがいるとのことだった。

 確かに魔王と戦った時も『聖域指定』で逃げ場を奪ってから拳で殴り倒したからこんなところで『聖域指定』を使えばバレるのも不思議じゃないか。


 ただ、読んでる感じ怪しんではいるけど俺が勇者だと確証は無いってところだろうか。

 まぁ『聖域指定』は俺のオリジナルだから同じ魔法を使えるやつはこの世に存在しないんだけどな。


「あわわわっ! お、お前は!」

「あん?」


 と、手紙を読んでいるとそこに見覚えのある人影が現れた。

 銀色の髪に巻角。

 赤い瞳とフリフリと揺れるしっぽ。


「よう、久しぶり」

「やっぱり貴様だったのか!」


 討伐したはずの魔王がそこには立っていた。

 しっぽをピンッと立ててこちらを睨みつける姿は威嚇する小動物を思わせるが、その力は街くらいなら簡単に滅ぼせるほど。


 やはり『聖域指定』で怪しんでいたのもあり、俺が荷物を取りに来るのを隠れて見ていたようだ。


「ていうかなんでお前生きてんの? 灰も残さず消したと思ってたんだけど」

「どうして貴様は殺した相手に対してそんなフレンドリーに話しかけられるんだ!? あのよくわかんない光めちゃめちゃ痛かったんだぞ!?」


 あー、トドメはこれまた俺のオリジナル魔法である『極醒きょくせい枝光しこう』という超広範囲殲滅魔法で魔王の住処ごと消し飛ばしたんだっけ。

極醒きょくせい枝光しこう』は触れたものを分解、蒸発させる光のビームを枝状に飛ばして広範囲を消滅させる魔法だ。

 創ったはいいけどあまりに危険すぎて人間の居住区が近くにあったりだとかすると使えなかったから最後の最後まで死蔵されてたんだよな。


「いいじゃん、死んでねぇんだから」

「いやいや、一回死んだから! 力の大部分を失う代わりに生き返れる秘術を使っただけで!」

「へぇ……?」


 ってことは今の魔王は大した力もない小娘ということか。

 元々そんなに強くもなかったのにさらに弱体化とかしたら今だとデコピンとかで死ぬんじゃないの。


「まぁそんなことはどうでもいいや。ご近所さんならこれから付き合いも長くなるだろうし仲良くしようぜ?」

「え? 殺された相手と仲良くできると思ってるの? これっておかしいのは私じゃなくて貴様の方だよね?」

「まぁまぁ、俺って過去は振り返らない主義だから。常に見据えるのは未来だから」

「やっと魔王とかいう重役から逃れられて、いざ平和なスローライフだと思ってたのになんでこんな事に……」


 服の裾を握りしめながら目に涙を溜めてこっちを睨みつける魔王。

 なんだその目は?

 俺と、もう一度やり合おうってのかい!?

 今度は手加減しないよ!?


「そんな目で見られてもな? 俺も人付き合いに辟易してここに来たんだ。お前が何もしなきゃこっちからなにかすることはないぞ」

「ひぅっ!」


 右手の拳に魔力を込めるとバチバチと電気が発生する。

 このまま攻撃したら一発で死ぬんだろうなぁ、なんてことを思っていると俺の右手を見た魔王が情けない声を上げて座り込んだ。

 まぁちょっと脅す目的で魔力を込めてみたけど、思ったより効きすぎたのかもしれない。

 魔王が座り込んだ場所には水溜まりが出来てしまっていた。


 魔力を消して近づいていくと、魔王は俺から逃げようとして後ろに這いずって行く。


「やめてぇ、殺さないでぇ……もう次はほんとに死んじゃうんです……お願いします、勇者の言うことなんでも聞くからぁ……」


 ボロボロと泣きながらそう懇願する魔王を見て、もうこれじゃどっちが悪者か分からんなと、そんなことを思った。


「別に殺さんって。ほれ、怖くないぞ」


 脇に手を入れ持ち上げると怯えきった目を向けながらさらに漏らす。

 ……漏らしすぎじゃないかこいつ?

 あまりにもだろこれは。

 さすがに見てられなくなった俺は魔法で綺麗にしてあげると、ゆっくりとその綺麗な銀髪を撫でた。


「前回は国からお前の討伐を命令されて仕方なくやったんだ。もうどこの国にも属してない俺がお前を殺す理由もない」


 赤子をあやすように優しく頭を撫でていると、段々と魔王の震えが収まってきた。

 なんか自分で怯えさせておいて自分で優しくするってこれが巷でよく聞くDVとか言うやつなんじゃないか?


「ほんとに? 殺さない?」

「あぁ、殺さない殺さない」


 恐怖のあまり魔王が幼児退行している気もしなくもないが、気にしすぎるのも可哀想かと思いそのまま続ける。

 頭を撫でながらふと、この角売ったらいくら位になるんだろうと考えていると、俺がよからぬ事を考えていると悟ったのか魔王が巻角を守るように手でガードしてきた。


「なんもしないから、ほら、これでも持って今日は帰りな」


 そう言って、俺はリンゴモドキを二つ魔王に持たせると魔王の家のある方に離してあげた。


「うぅ……」


 何を考えているのかは分からないが、魔王は唸りながら俺の顔をチラチラと見て、それから小走りで自分の家の方に逃げ帰って行った。

 とてつもないマッチポンプをしてしまったような気もするが、細かいことを一々気にしてたら禿げそうなのでこれ以上気にしないことにした。


 ただ、これからは少し魔王には優しくしてやろうかとも思った。


 ちなみに、手紙と一緒に置いてあった紙包みの方はまたしてもよく分からない前回とは違う植物の種だった。

 これもまた植えておこう。

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