世界を救って隠居した勇者である俺の隣人は倒したはずの魔王だった!?
神獣タートルネック
第1話:引越し先に魔王がいた件
鬱蒼とした森の中、自ら作ったログハウスの中で俺は困り果てていた。
五年前、魔物たちの王である魔王を討伐する旅に出た俺は、数々の敵をうち滅ぼし、街を焼き、山を消しながら無事魔王を打ち倒すことに成功した。
しかしこの五年の旅の中で俺の魔力はとうに人間の許容量を超えており、そのあふれ出る魔力によって歳をとらない体になってしまった。
魔王という巨悪をうち滅ぼす力を持った歳をとらない人間が果たして他の人間と共存することができるのか。
国に帰ってからは俺の力を利用しようとする輩もわんさか現れ、人付き合いに嫌気がさした俺は人里離れた山の中で隠居することにした。
とりあえず家でも作るかと言う事でそこらの木を切り倒してログハウスを作ったところで、近場に何者かの生体反応があるのに気付いた。
こんなところに人間がいるはずもないので、生き残りの魔物かと思い様子を見に行くと、そこには討伐したはずの魔王の姿があった。
「これからどうすっかな」
死んだはずの魔王が生きていたのも問題だが、まさかのご近所さんだとは。
このままじゃ俺の平穏な隠居ライフが……。
かといってもう一回倒すのもなぁ。
余裕ではあるけど純粋に可哀そうだよな。
この場所を手放すのも惜しいし、魔王にバレるまではこのままここで生活するとしよう。
バレたらバレたで手を出されたら消そう。
うん。そうしよう。
二日ほど家具やら畑やらを作って過ごしているうちに、ついに魔王に俺の存在がバレた様だ。
朝起きたら軒先に置手紙と謎の紙包みが置かれていたからすぐにわかった。
「呪いのアイテムかね?」
今更呪いごとき俺に効くわけもないんだが、どうしたものか……。
とりあえず一回手紙の方を読んでからどうするか考えるか。
「……は?」
封筒を開くと中から可愛らしい花をあしらった便箋が出てきた。
手紙を読み進めていくと俺は困惑してしまった。
要約すると、こんなところに引っ越してくる人がいるとは思わなかった、訳あって姿は見せれないけどご近所さんとして仲良くしてほしいという内容だった。
もしかして俺が勇者だって気付いてないのか?
本当に気付いてないならあいつ相当なマヌケだぞ。
手紙の内容には紙包みの中身は書かれてなかったが、まぁ俺だと気付いてないなら変なもんは入ってないんじゃないかと思うんだが。
早速開けて見ると中には謎の種が十粒ほど入っていた。
見た目はスイカの種っぽいけどあいつがそんな普通の物を渡してくるわけがないんだよな。
まぁ植えておけばわかるだろう。
「とりあえずここを『聖域指定』しておくか」
たびたび知らないうちに魔王に敷地内に侵入されるのも嫌だしちょっとした結界を張っておく。
家の周りを囲むように五か所に俺の血を数滴たらして家の横に聖剣を突き刺す。
すると垂らした血と血が線を結び、五角形の障壁を作ると空気に溶けるように消えた。
俺のオリジナル魔法である『聖域指定』は聖剣と俺の血を媒体にして魔の物をはじく結界を作る魔法だ。
囲む範囲が広くなればなるほど多くの個所に血を垂らしておかなければならないし、突き刺してる聖剣を抜いたら効果が切れるから使えないし。
魔力は漏れ出てる分で補えるから魔力的にはコスパ良いんだけどな。
魔王対策はこれで出来たからあとは植えた種が成長するのを待つか。
二週間ほど経つと、植えた種も信じられないくらい大きく成長して、今では俺の身長を超すくらいの大きさまで茎をのばしていた。
「これほんとに大丈夫な物か?」
二週間で俺の身長超えるくらいだろ?
このまま成長し続けたら食人植物になったりとかしないだろうな?
しかしよく見ると茎の先に黄色の木の実が五つほどなっているのに気が付いた。
成長しきってるのか知らないけど、一旦食べてみることにして、俺は木の実に指を向けるとそこから魔力を飛ばして一つだけ収穫してみた。
「見た目はリンゴの色違いっぽいか? 黄色と言うか金色と言うか、淡い色ならまだしもここまではっきりした色だと食欲も失せるな……」
グダグダ言っていても仕方ないのでとりあえず一口。
シャクっと歯を通すとあふれ出るのは信じられないくらいの甘味。
本当に果物かと疑うくらいに糖度の高い果汁があふれ出して来た。
う、美味いぞぉぉぉおおおお!
口と目から光のビームが飛び出るイメージが脳内を駆け巡るくらいには今まで食べてきたどの果物よりも美味しかった。
今すぐにでもこの果物のことを魔王に聞きに行きたいところではあったが、不用意に接触して敵対されると面倒なのでグッと我慢して俺は食いかけのリンゴモドキを食す。
やっぱうめぇわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます