第15話
十五
アメリカ シカゴ 二十時三分
床の巨大な世界地図には小さい赤い光が二つ、北アメリカ大陸と日本に点っている。幾つもの光が集まって出来ているのか、歪な大きい赤い光が地図上のシカゴの位置に点っている。木製のテーブルの天板は液晶になっており、二十九名の顔写真が表示されている。最近撮られた画質の良いものもあれば、白黒の画質の悪い写真もある。様々な時代と人種の写真の内一枚をヨルトはタップした。するとそれ以外の写真は左右にサーッと移動していきタップした写真が残った。写真の下方には様々な内容の文が英語で表示された。
名前 伊藤優
出身地 日本 宮城県 石巻市
年齢 二十九歳
能力 スピード
交友関係 親友 花澤大星
情報提供者 三村華
上司 梅沢清志————
テーブルに置かれた固定電話から着信音が鳴った。プラスチック製の受話器を取り、口元に当てた。
『ヨルトさん。前回お話しした件でテレビ局のアンソニーさんからのアポ取の電話です』
天然パーマの黒人女性からの電話だ。
『わかった。繋いでくれ』
通話音が切れ、直後に男性の声が聞こえてきた。
『Mr.ヨルト。説明してくれるんだよな。あれは一体どういうことだ?』
開始早々捲し立てた。
『落ち着いてくれないか。各国でその話題を取り扱っているんだ。落ち着け。その真相には誰一人辿り着けない』
『だから助けを求めてるんだ』
ヨルトは背もたれに体重をかけ目を閉じながら話した。
『話したとしてどうする?こちらには不利益しかない』
その言葉を聞いてアンソニーは戸惑った。
『お前は無欲すぎる。見返りを渡そうにも何も受け取らなじゃないか』
『無欲な人間などいない』
『わかった。じゃあ寄付をしよう。お前の会社に三万ドルを贈る。それでどうだ?』
それを聞いてヨルトはテーブルの液晶を操作してアフリカの数々の国の写真を表示した。その写真を上にフリックした。
『すまないがメールが来たからちょっと待っててくれ』
そういうとアンソニーからの音声が途切れた。
『イタズラメールだったよ。それで何だっけ?』
『そこまでのお金があるなら彼らに渡してはどうかな?』
『もう一つのメアド教えたか?まあいい。じゃあ彼らに渡せば話してくれるってことか?』
『私が二十年以上守り続けてきた秘密がこんな形でバレるとは癪だがね』
電話越しで見えないがガッツポーズをしているのがわかる。
『それじゃあ明日の十一時に向かうよ。それじゃあ』
そう言うとアンソニーは通話を切った。再び室内にはヨルトの衣擦れの音のみが広がっていく。
東京国際空港 十六時三十分
清掃が行き届いた空港内をあらゆる人種の人々が行き交っている。その中を大きめのスーツケースをひいた伊藤らが歩いている。一度家に取りに帰り、会社に有給申請をして、とドタバタ五時間を過ごした彼らは少し疲れているように見える。伊藤と花澤の会社は比較的ホワイトなので急に「今日から有給を取ります」と話すと迅速に受理をしてくれた。ただし「帰ってきたら仕事は十二分にしてもらうぞ」と言われている。
何とか滑り込みでチケットを購入した三村は一度家に帰った。三村は実家暮らしなので母が温かく迎えてくれた。十年以上も女手一つで育ててくれた母には心からの感謝の気持ちを持っている。
「こんなに早く帰ってくるなんて珍しいねぇ」
いつもは七時を過ぎてから帰ってくる娘が昼に帰ってきたので不思議に思った。
「おかあ、私ちょっと一週間ぐらい家出るわ」
「どこ行くのよ?」
更に不思議が増えた。
「う〜ん。調査といえば調査だし、人探しといえば……
「人探し?友達に何かあったのかい?」
三村は考えた。
「友達とまでいくのかな?まぁ、初対面ではない」
これまで不思議なことをいくつもしてきた娘だったので佐知は了承した。
「家を空けるんだったらお父さんに挨拶してきなさい」
そう言われると三村は家の奥へと進んでいった。
登場時刻になるとアナウンスが流れると第三ターミナル内のAA26番の搭乗口に向かった。搭乗するにあたっての様々な検査を終えて飛行機に乗り込んだ。伊藤は47-K、花澤は47-H、三村は48-Kだ。席に着くと離陸を待った。
飛行機は誘導路から滑走路に進入し機体を滑走路方位に正対させた。操縦席ではパイロットが航空管制塔にいる航空管制員からの指示を待っている。テイクオフクリアラントが出ると離陸操作を開始した。PFはブレーキを踏んだままスロットルレバを少しだけ前に倒した。エンジン計器をPMが確認して正常を確認するとコールをした。
「スタビライズ」
PFはそれを聞きレバーをTOGAポジションまで進めると同時にブレーキを放した。ゆっくりと機体が動き出し、PMがはエンジン計器をモニターし、エンジン推力を表す指標が離陸推力まで達したことを確認した。
「スラストセット」
そうコールすると機体は加速し始めた。PFは前方の視界に目をやりながら、PMは速度計の他にエンジン計器にも目をやりながら、異常がないことを確認して加速を続けている。速度が100ktに達するとPMが「ワンハンドレッド」とコールした。それを受けて速度計を確認して「チェック」と返答した。
どんどんと機体は加速していき速度がV1に達するとPMがPFに向けてコールした。
「ブイワン」
どんどんと加速していき機体は振動している。それは三村にとっては不安を煽るだけだった。いつも見る飛行機に関する話は大体が墜落しているからだ。外の景色は窓の右側に吸い込まれていく。直後振動が治まり景色が傾いた。
機体は日本の地を離れ、三村にとっての道の土地。アメリカを目指して飛び立った。
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