第7話

   七

     三十分後

 なんとか見えないカタカムナを再び探し出した伊藤はその真下の地面に穴を掘って目印を付けると二人を呼びに戻り、二人を目印のところまで案内をした。当たり前だが二人は見えるはずもなく、伊藤に指示を出すしかなかった。最初の指示は。

「まずは声に出して読んでみたら?」

 伊藤はカタカムナの前に立ち息を吐いた。

「え、発音は日本語でいいんですよね?」

 急に不安が込み上げてきてしまい、三村に質問をした。

「は、はい。それでいいと思います」

 今度こそ。と決心をして息を吐いた。

「ひらけ!」

 いくら待っても何も起きない。

「あれ?」

 三人とも拍子抜けしてしまい、一気に緊張がほぐれてしまった。

「じゃあ次。なぞってみるのは?」

 再びカタカムナの前に立ち彫られたカタカムナに指先を触れた。

「書き順ってあります?」

 今度は本当に知らなかった。

「特に無かった気がします」

 気がしますって。伊藤はまたしても不安になった。やらないよりはマシなので伊藤は不安を伴いながらもなぞってみることにした。カタカムナは二センチ×二センチほどの四角に収まるほど小さく、機械で彫ったように円はなめらかで、直線は歪みがないことに気がついたら。

 最後の小さい円までなぞっても壁はうんともすんとも言わない。幾つもの案を試してみたが壁に変化は無かった。三人とも首を傾げていると伊藤が疑問を交えながら呟いた。

「もしかしたらもう扉が開いてるとかあるかな?」

 確かに、と花澤は思った。扉が開く時には音が鳴る。そういった固定概念を覆すことが必要になることに薄々気づくことなる。

「じゃあ、ちょっと開いてるかどうか調べてみてよ」

 そう言われた伊藤は少し怯えながら壁を調べ始めた。未知の生物がいたらどうしよう。感電なんかしたらどうしよう。などの不安を心の中で連ねていた為調べるのに時間がかかってしまった。

 腰が引けている伊藤を見て三村は苦笑いをし、花澤は鼻で笑っている。すると、伊藤が二人の目の前から忽然と消えてしまった。左院何消えてしまった時と同じように。

 透明な壁を調べて知ると左手の小指が空を切った。その他の手の平や指は壁にふれている。不思議に思った伊藤は怖がりながらも左手を一気に伸ばした。壁があるのなら壁にぶつかる筈なのだが左手は何にもぶつかることはなく、体のバランスを崩してしまい倒れてしまった。倒れた先は地面に生えている草ではなく、頑丈な床だった。その床は鉄やコンクリート、ゴムなどの素材のように思えるが思い当たるものは一つもなかった。床は鮮やかな色であり、そのままの体制で目線を上げると機械的な壁、天井があった。

「おーい!伊藤。大丈夫か」

 花澤は焦ったように伊藤の痕跡を探した。伊藤が消えた場所を重点的に探したがどこにも伊藤はいなかった。

「まさか、左院さんと同じ現象が?」

 眉間に皺を寄せた三村が呟いた。目線を上げると花澤が尻餅をついて座っている。花澤の目線の先には伊藤の頭だけが浮かんでいる。透明マントを羽織ったハリーのように頭以外が見当たらなかった。三村は反射的に身構えてしまった。何故なら何もないところから左腕が現れたのだ。左腕に注目していると隣から右腕、身体、足が次々と現れていく。伊藤は好奇心に満ちた顔で言った。

「宇宙船だった!」

 尻に付いた土を払い花澤は伊藤が出てきたあたりを指差す。

「な、言っただろ。これは正真正銘の宇宙船なんだよ」

 三村は口を開けたまま呆然と立ち尽くしていた。UFOが目の前にある。それだけが頭の中にある。その横では花澤が伊藤と電話をしている。

「コックピットに着いたか?」

 途切れ途切れの伊藤の声が聞こえてきた。

「いや、……ぎて、あ…… にが何……わから……い」

 何を言っているのかは所々の言葉でなんとなくわかった。

「まだか。だったらラインにしてみるか?」

 再び伊藤の声が聞こえてきた。

「な……?」

 水を差したように静かな船内に伊藤の声が響いていく。何故かうまく電話が繋がらないのと広すぎる船内に不安が込み上げてきた。船内には機械的な壁の通路や金属とも大理石とも違う床や壁でできた広間のような場所が十数個確認できた。そのほかにもガラスの様な素材でできた窓や間仕切り、今まで見たことのない艶やかな扉など、様々な地球の物とは違う物体でできた部屋や通路があった。何処をみてもスイッチや照明、はたまた生物がいた痕跡などが一つもない。これを見ると宇宙船なんだという実感がさらに湧いてきた。船内には窓、更には光源があるわけでもないのに薄暗く、怪しさを引き立てている。高速で船内を走り、探っているが花澤の言うコックピットが何処にあるのかさえ掴めないほど船内はとてつもなく広かった。一歩歩くたびに踵と地面がぶつかる音が船内に反響する。

「無理だな」

 船内を何十周もしているうちに迷子になる気がしてならなかった。一旦外に出て態勢を立て直そうと出口を探した。

   二秒後

「あれ?」

   再び二秒後

「あれ?何処だ?」

 何処を探しても入ってきた時の扉が見当たらなかった。壁伝いに歩いても長い壁には外界と繋がる扉がなく、伊藤は宇宙船に閉じ込められてしまった。

「伊藤遅いな」

 辺りをキョロキョロと見回しながら三村に聞いた。

「超高速にしては遅いですね」

 伊藤が宇宙船に入ってから五分経った時計を見て不安に思った。

「まさか宇宙人に襲われたんじゃ」

「それだったら自慢のスピードでなんとかするんじゃないか?」

 花澤の言い分もわかる。が、一般人が未知の相手に対してどうにかできるとは思えない。

 どうにも出来ず伊藤を待っていると背後から何者かが枝や葉を踏む音が背後から聞こえてきた。その音に反射的に二人は後ろを向く。目の前には金髪でそばかすのある青年が立っていた。花澤と同じくらいの背の青年はキョトンとした表情で二人を交互に見ている。

「what?」

 あ。

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