第10話 2004年 あいのうた

 ×××は怪物の卵を見つけた。

 

 川辺に流れ着いた真っ黒な岩。何年もかけて水の流れに洗われ、ついに地中から現れたような、ごつごつとした大きな岩。

 ぱきりと音を立てて真っ二つに割れると、柔らかくて黒いものがあふれ出た。


 ほろろろろん、ほろろん。


 ハープにそっくりな柔らかい音が、黒いものがうごめくたびに微かに鳴る。

 この黒い液状のものは生き物であり、この音はどうやら産声なのだ。

 ×××は心が温かくなるのを感じた。

 それは彼女が生まれて初めて得た感情だった。


 ほろろん、ほろん。


 優しい音に誘われるように、×××は手を差し伸べた。

 赤ん坊の怪物は一度ためらった後、彼女の手のひらを受け入れた。


 おかあさんだよ。なかよくしようね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る