第6話 2022年 潮騒の街 ③

 二番目の被害者ね。

 秋森梨花さん。ええ、同級生だったわ。

 よく覚えています。付き合いはあまりなかったのだけど、たぶん私にとって柚野さんの次に近しかった人だわ。だって、クラスメイトだったから。

 

 西野学園高校は当時、私立ではまあまあ偏差値が高かったの。生徒もみんな真面目で、お上品なものだったわ。だから、ちょっと問題児だった秋森さんは浮いていた。普通の学校だったら不良グループで固まるのかもしれないけれど、秋森さんには一緒に過ごす仲間がいなかったの。

 だから柚野さんとよく一緒に行動していたけど、あれは――大人しい柚野さんを秋森さんがいいように利用しているっていうふうに見えたわね。

 秋森さんが好きなことをしゃべって、柚野さんがにこにこして聞くだけで。言いたいことをずけずけ言うタイプだったから、柚野さん以外の子はみんな距離を置いていた。


 評判が悪かったのよ、秋森さん。

 問題児だったって、私さっき言ったわね。素行不良だったり、学業成績のことだけじゃないの。そちらのほうももちろん問題はあったんだけど。

 男性と、それもずっと年上の男の人と、お金をもらって会っているって噂があってね。

 そうね、いわゆる援助交際。今はパパ活とかいうのかしら。

 このあたりは、雑誌にもずいぶん書かれたわね。あなたのほうがよくご存じかもしれないわ。私はあまり読みたくなかった。痛ましくて――ええ、私立校に通っていたくらいだから、ご実家は裕福だったみたい。だから必要に迫られてというよりも、自分で自分を痛めつけているみたいな、自傷行為みたいなものだったのかしら。ご両親と折り合いが悪かったとも聞いたわ。

 かわいそうな子だった。今思うと。


 いいおうちの優等生ばかりが集まったあの学校で、とにかく彼女は異物だったの。

 黒くてつやつやの髪をきちんと整えた女の子たちに混じって、荒れた茶色いロングヘアの秋森さんがいたのよ。いい大学いい人生を目指している子供たちにとって、彼女はハンカチに落ちたシミのようなものだった。排除やいじめがあったわけじゃないわ。ただ、はっきりと一線を引かれていた。クラスの行事では声をかけられるけど、放課後のカラオケには呼ばれない。集合写真では寄り添ってポーズをとった女の子たちが、撮影が終わると口もきいてくれない。

 そこで彼女がどうしたかというと、気は利かないけど害もない柚野さんで間に合わせることにしたのよね。

 放課後にカフェでお茶を飲んだり、試験前にノートを借りたり。ほかの子と喋っていようものなら、柚野さんのほうを押しのけて割って入っちゃうの。柚野さんは大人しい子のグループにいたんだけど、みるみるうちに秋森さんとペアで扱われるようになって。みんな気の毒だと思ってはいたけど、別に止めたりはしなかった。柚野さん自身も秋森さんほどではないけど、それほど好かれていなかったから。


 2人が一緒にいるようになってから、半年くらいだったかしら。

 秋森さん、急におかしくなったの。

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