第2話 2004年 あの子は心がわからない

 ×××は、自分がおかしいということを知っていた。

 好きなものはある。

 例えば、見た目のかわいい菓子を見ると欲しくなる。

 好きな人はいない。

 両親も含め、誰かに気に入られたいと思ったことはない。

 嫌いなものはある。

 五感に苦痛を与えるものが嫌いだ。例えば嫌な臭い、肌触りの悪い服、まぶしい光や五月蠅い音。身体を通して与えられる苦痛を彼女はとても嫌っている。

 嫌いな人はいない。

 例えば暴力をふるわれれば、痛いことは嫌だから反撃するが、素行の良い女子高生である彼女にそんなことをする人間はいない。言葉や態度での暴力は彼女に影響を与えない。

 ×××は人間に興味がなかった。

 生活に支障をきたさないように、興味があるようなふりだけをしていた。


「ゆゆー、放課後にスタバ行かない」

「いいよ。駅前のでいい?」

「どこでもいいよ。ついでにさ、保健体育の課題、写させてくれない? 調べるの面倒でさあ」

「わかった。先に行って、お菓子屋さん見てていい?」

「いいよお。ゆゆ、ほんと甘いもの好きだよねえ」


 ×××はにっこりと笑って頷いた。

 彼女を誘った同級生も、「ゆゆって本当、やさしいよね!」と笑いながら言った。

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