94話 飲み比べ
私はアリシアさんとフレッドと共に、秋祭りを回っている。
なんだか、二人の仲の雲行きが怪しい感じだ。
アリシアさんが先んじて私に串焼きを奢っていたことに胸を張り、それに対抗してフレッドは私と仲のいい姉弟であることを強調した。
少しギスギスとした空気の中、私達は歩いて行く。
「ふふふ。串焼きでは遅れを取りましたが、次はこれです。このフルーツジュースは、とても素晴らしいですよ」
「へぇ、どんな味なのかしら? 楽しみだわ」
私はフレッドに勧められた飲み物を受け取り、飲んでみる。
すると、口の中に爽やかな甘味が広がった。
「甘い! とっても美味しいわ!」
「気に入ってもらえたようで良かったです」
「えぇ、とても気に入ったわ。アリシアさんもどうぞ」
私はアリシアさんにも勧める。
しかし、彼女は首を横に振った。
「いえ、わたしは結構です。遠慮しておきます」
「そ、そう……」
アリシアさんは頑なに拒んだ。
こんなに美味しいジュースなのに……。
私は、彼女のことがよく分からなくなる。
「姉上、たくさん飲んだら無料になるそうですよ」
「あら、本当だわ。珍しい形式ね」
とんでもなく大きなサイズの食べ物を完食したら無料、というのは聞いたことがある。
でも、ジュースでこういう形式はあまり聞いたことがない。
「いいわね。私は参加してみるわ」
「僕も参加します。せっかくですので、僕と姉上で飲み比べをいたしませんか? 先にダウンした方が負けです」
「分かったわ。受けて立ちましょう」
私はアリシアさんのことは一旦忘れることにした。
今は勝負に集中しよう。
「それじゃあ、始めましょう。レディーゴー!」
私は勢いよくジュースを飲み干していく。
「ごくごく……。ぷはー! 美味しいわ!」
「姉上は、随分と余裕がありそうですね」
「そんなことないわよ。ギリギリのところよ」
「そうですか? 僕にはまだまだ余力があるように見えますけどね」
そう言うフレッドも、全くペースが落ちていない。
これ、意外とキツいかもしれないなぁ。
私はジュースを飲む手を止めないまま考える。
「ううーん。何だかいい気分になってきたわ」
「姉上、大丈夫ですか?」
「えぇ、全然平気よ。むしろ絶好調といった感じ~」
「あまり大丈夫そうには見えませんが……。まぁいいでしょう。僕もまだまだ飲めます」
「望むところよぉ」
私はその後も、ジュースをガブガブと飲んでいく。
「み、見ろ……。あの二人を……」
「凄い量を飲んでいるな。特にあっちの嬢ちゃんが……」
「だが、まだ子供じゃないか? あんなに飲んで大丈夫なのだろうか?」
通行人の声が聞こえてくる。
なんだか心配されているみたいだけど、私はまだまだいけるわよ。
「ふぇへへ~。いい気分だわ~」
何だかテンションが上がってきた。
引き続き秋祭りを楽しんでいけそうだ。
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