93話 むっきぃ~

 私はアリシアさんとフレッドと共に、秋祭りを回っている。

 二人もそれなりに仲が良さそうで助かった。

 アリシアさんが時々フレッドを凄い顔で睨んでいるのは、気のせいだろう。

 それよりも憂慮するべきは、私の記憶力についてである。

 私が考え込んでいると、二人が食べ物を奢ってくれるという話になった。


「では参りましょう。姉上のお腹が鳴ってしまう前に」


「そうですね。イザベラ様の胃袋は無限大ですし」


 二人は何やら失礼なことを言いながら、屋台に向かっていく。

 そして、それぞれ別々の品を注文した。

 私は、二人の後に続く。

 まず最初に、フレッドが買った串焼き肉を渡された。


「どうぞ、姉上。僕のオススメです」


「ありがとう。じゃあ、いただきます。……うん、すごく美味しいわ」


「でしょう? 実は入念に下調べをして……」


「さっきアリシアさんにも奢ってもらったし、これは私のお気に入りになりそうね」


 私は串焼き肉をペロリと平らげつつ、そう言う。

 屋台とはいえ、いい肉を使っている。

 これならいくらでも食べられそうだ。


「えっ……。い、今なんとおっしゃいましたか?」


「え? 私のお気に入りになりそう?」


「いえ、その前です」


「アリシアさんに奢ってもらっていた?」


「…………」


 フレッドの表情が凍りつく。

 アリシアさんの方はというと、なぜか自慢げな様子だ。


「あれ? どうかしたのかしら? 何か問題でもあった?」


「……いえ、何でもありませんよ。ただ、姉上は食いしん坊だなって思っただけです」


「まぁ、酷いわ。これでも淑女として最低限の嗜みはあるつもりよ」


「ふーん。そうなんですね」


「えぇ、そうよ」


「「…………」」


 私とフレッドの間に妙な雰囲気が流れる。


「まあいいでしょう。それなら、次へ行くだけです。僕の下調べはこんなものじゃありません。また新たに姉上のお気に召す食べ物が見つかるでしょう」


「あら、本当? それは嬉しいわ。ありがとう」


「いいんですよ。僕たちは姉弟ですから。この世界で、互いに唯一のね」


 今度はフレッドがアリシアさんに挑発めいた視線を向ける。

 どうしてそんなことを言うのだろう?

 私とアリシアさんは仲のいいお友達だ。

 こんな謎の挑発でどうこうはならないだろう。

 私はそう思ったけれど……。


「むっきぃ~」


 アリシアさんは何故か怒った。

 何故だろう?

 怒る要素などどこにもなかったはずなのに。


「さて、行きましょう。次はどこへ行きたいですか? 僕はどこでも案内しますよ」


 フレッドは機嫌良く歩き出す。

 その後ろ姿を、アリシアさんが睨んでいたのだった。

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