89話 あなたに会えて本当によかった
私はアリシアさんと秋祭りを回っている。
手始めに焼き鳥を平らげた。
次は果物屋を見つけて、二人でリンゴ飴のようなものを買った。
「美味しいですね、イザベラ様」
「そうね。こういうのも良いかもしれないわね」
「はい、すごく楽しいです!」
アリシアさんは満面の笑みを浮かべている。
「アリシアさんは王都に来て、良かったと思うことはある?」
「はい、いっぱいあります。まず、イザベラ様に会えたことが一番嬉しいです。あと、こうしてお祭りを一緒に回れることも……」
「……」
照れくさくて言葉が出なかった。
私も同じことを考えていたなんて……。
私はバッドエンドを回避するために、いろいろと頑張ってきた。
畑仕事から始まり、ポーションを開発したり、カインや孤児達に魔法の指導をしたり、エドワード殿下を魔獣から守ったり、オスカーに氷魔法のアドバイスをしたり……。
後はもちろん、日々の座学とかダンスの練習なんかにも取り組んできた。
その一方で、バッドエンド回避を意識するあまり人とは距離を取りがちだったかもしれない。
だけど、それだけじゃダメなんだよね。
やっぱり、実際に人と関わっていかなくちゃいけないんだ。
私は今、それを実感している。
アリシアさんと出会って、私の世界は大きく変わりつつある。
「イザベラ様? どうされました?」
「いえ、なんでもないの。ちょっと考え事をしていただけよ」
「そうですか」
アリシアさんはニコニコと微笑んでいる。
その笑顔を見てると、こちらまで幸せな気分になる。
「ねぇ、アリシアさん」
「なんです?」
「私もあなたに会えて本当によかったと思っているわ」
「……」
アリシアさんは黙ってしまった。
何か気に障ることを言っただろうか。
「ごめんなさい、迷惑だったかしら?」
「い、いえ、違います! 嬉しくて、つい……」
「ふふっ、なら良かったわ」
「はい、わたしもイザベラ様にお会いできて、本当に幸せです」
私達は見つめ合いながら、笑い合ったのであった。
「あ、あのイザベラ様、一つお願いしてもいいでしょうか」
「あら、なにかしら? 遠慮せずに言ってみて」
「わたし、イザベラ様とダンスを踊ってみたいです」
「ダンスを? ……ああ、もう少ししたらダンスの時間になるわね。でも、どうして私と? アリシアさんなら、素敵な男性を選り取り見取りでしょうに……」
「いえ! わたし、イザベラ様と踊りたいのです!」
「えっと……」
アリシアさんは真剣に目を見てくる。
そんなに期待された目をされると断りづらいんだけど……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます