88話 好きよ

 私はアリシアさんと秋祭りを回っている。

 屋台では食べ物を売っている店が多いようだ。


「イザベラ様、何か食べますか?」


「そうね……。せっかくお祭りに来たのだし、少しだけ買っていきましょう」


 私たちは食べ物を買っていくことにした。


「あの、これください」


 アリシアさんが焼き鳥のようなものを買う。

 串に刺さった肉を炭火で焼いてタレをかけたものだ。


「はいよ。お嬢ちゃんたち可愛いねえ。サービスしておくよ」


 おじさんは私達に二本おまけしてくれた。


「わあっ、ありがとうございます!」


 アリシアさんは嬉しそうだ。

 彼女は入学式の時点で、純朴系の可愛さを持っていた。

 だが、貴族ばかりが通う王立学園においては、華やかさにやや欠けていた。

 そこで私は彼女に化粧やオシャレを教えてあげた。

 今の彼女は、立派なレディだ。

 可愛らしさに加えて美しさも兼ね揃えている。

 噂では、彼女に陰ながら懸想している男子生徒も多いとか。


「イザベラ様もどうぞ!」


「あら、悪いわね。それじゃあ、一ついただくわ」


 私は焼き鳥のような串を受け取る。

 うん、なかなか美味しい。


「んふふ~」


 アリシアさんは幸せそうにモグモグしている。

 可愛いな。


「あれ? 私とアリシアさんのお肉、少し種類が違うみたいね?」


「はい! イザベラ様の方が高いものですね! それに、量も多いです」


 アリシアさんが無邪気に言う。


「…………」


 いや、別にいいんだけど。

 なんかこう、釈然としないものがあるというか。


「どうかされましたか? イザベラ様」


「いえ、昨年のことを思い出してね……」


「昨年ですか?」


 アリシアさんの顔が少し曇った気がした。


「昨年も、エドワード殿下、カイン、オスカー様から大食い扱いされたのよ。まったく、私のような淑女に向かって失礼だと思わないかしら」


「あはは、確かにそれは酷いですね」


「笑い事じゃないわよ、もう。そう言うアリシアさんだって、たくさん食べる方でしょ?」


「うぅ、それは否定できません……」


 アリシアさんは困り顔だ。

 私と彼女はたまに昼食を共にする。

 彼女はとてもよく食べるのだ。


「でも、アリシアさんの食べっぷりは見てて気持ちが良いわよ」


「えぇっ、そんなことないですよー」


 アリシアさんは顔を赤くしながら、恥ずかしげに笑う。


「そんなことあるわよ。……ほら、言っている間にもう全部食べちゃっているじゃない」


「そ、それは……」


「いいじゃない。たくさん食べる子の方が、私は好きよ」


「えっ。そ、それって……」


 アリシアさんは顔を赤らめて俯く。

 私は首を傾げる。

 なんだろう、この反応は。

 まさか、変なこと言っちゃったかな?


「ほら、また次の屋台があるわよ。今度はフルーツね」


「わぁ、本当です! 行ってみましょう!」


 私達は再び歩き始めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る