83話 カイン

 エドワード殿下、カイン、オスカーにお断りの手紙を出した数日後。

 秋祭りまであと少しに迫ったとある日のことだ。


「イザベラ嬢! ここにいたのか! 探したぜ」


「あら、カインじゃない。どうしたの?」


 私は校舎裏で休憩をしていた。

 そこに現れたのは、赤髪の少年。

 カイン・レッドバースである。


「イザベラ嬢に話があってな。ちょっと時間いいか?」


「ええ、構わないわよ」


 私は特に用事もなかったし、二つ返事で了承する。


「早速だが、秋祭りの話だ。手紙ではお断りされちまったな。俺としては残念なんだが、イザベラ嬢にも都合があるんだろう。俺は無理強いするつもりはないさ」


「いえ、こちらこそごめんなさい。今年はフレッドと回ってあげたくてね。去年は領地で寂しい思いをしていたみたいだから」


「まあ、あいつはなぁ……。かなりのシスコンだよな。傍目から見てても分かるくらいに。でも、仕方ねえよな」


「仕方ない?」


 シスコンに仕方がないとか、あるのだろうか?


「いろんな噂を聞いてるぜ? アディントン侯爵家の義理の息子として、肩身が狭かったところをイザベラ嬢に助けられたとか。あいつの母親が難病にかかり、イザベラ嬢のポーションで快復したとか」


「あらまあ。そんなことまで知ってるの? 誰から聞いたのよ、それ」


「フレッド本人からだ。俺とフレッドは結構仲が良くてよ。いろいろ教えてくれるんだよ。イザベラ嬢がいかに素晴らしい女性なのかって、いつも力説しているぜ」


 そう言えば、フレッドとカイルの交友関係も長い。

 長さだけで言えば、私とカイルの交友関係と同じ期間だ。


「ふーん。それは光栄ね」


 私がいないところで、フレッドが私のことを褒めちぎってると聞いて悪い気はしない。

 まあ、そのシスコンっぷりには少し心配な気持ちもあるけど……。


「ま、そんなわけで、俺がイザベラ嬢と秋祭りを回ることは諦めたぜ。それでだ。もし良かったら、せめて剣術の鍛錬に付き合ってくれないか?」


「剣術の鍛錬?」


「ああ、そうだ。俺もずいぶんと腕を上げたんだぜ? 是非ともイザベラ嬢に見てもらいたいと思ってよ。どうだ? もちろん、無理にとは言わないが……」


 カインは控えめにそう言った。

 彼は剣術のエキスパートで体育会系なのだけれど、こういうところでは意外に繊細なんだよね。

 俺様系のエドワード殿下とは少し違うタイプだ。


「分かったわ。じゃあ、今から中庭に行きましょう。そこでなら、多少暴れても大丈夫だしね」


「おっ、本当か! 助かるぜ!」


 そういうわけで、私はカインの剣技を見ることになったのだった。

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