84話 エドワード殿下

 私はカインと共に中庭に向かう。

 すると、そこには先客がいた。


「ふんっ! ふんっ!」


 その人は一心不乱に剣を素振りしている。

 そして、私とカインの気配に気付いたのか、こちらに視線を向けた。


「むっ。イザベラか。それにカインも一緒とは」


「エドワード殿下。ご機嫌麗しゅう」


 中庭にいたのは、エドワード殿下だ。

 彼は次期国王として、様々な科目で優秀な成績を収めている。

 特に秀でているのは座学と防御魔法だ。

 しかしそれ以外の科目も決して不得意というわけではない。

 むしろ、生徒全体から見ればかなりの上位に位置する。

 剣術においても、学年最強のカインに次ぐレベルだったはずだ。


「なぜお前たちがここにいる?」


「はい。私が休憩をしておりましたところ、カインに剣術を見て欲しいとお願いされまして」


「ほう。なるほどな」


 エドワード殿下は納得したように呟くと、鋭い眼差しを私に向けた。


「イザベラ。俺を差し置いて、カインと二人きりで逢瀬を楽しむとはな」


「えっと……、エドワード殿下。私は別にそのようなつもりでは……」


「ふん。まあいい。それよりも、カインよ。イザベラに剣の腕を見せるというのはいい考えだぞ。ちょうど、俺もイザベラに剣技を披露しようと思っていたのだ」


「おう。エドも頑張ってるもんな。ま、第三学年の剣術主席の俺ほどじゃねぇけどよ」


 私は第二学年、エドワード殿下とカインは第三学年だ。

 その第三学年の剣術における主席はカインで、それに次ぐのがエドワード殿下ということになる。


「ちっ。俺には魔法や座学もあるんだ。剣術だけで俺の上に立ったと思うな!」


「へぇ~。エドがそこまで上下に拘るなんて珍しいじゃねぇか。やっぱりイザベラ嬢の前だからか? 王子様でも嫉妬するんだな。意外だよ」


「…………」


「おいおい。冗談だってば。そんな怖い顔すんなよ」


 エドワード殿下とカインの間に不穏な空気が流れる。

 この二人、仲が悪い印象はなかったけど……。

 学園内で遠くから見かける時は、いつも和やかに会話をしていたはずなのに。

 どうして急にこんなことに?


「あの、エドワード殿下。私は気にしておりませんので、どうかお気を鎮めてくださいませ」


 私は慌てて口を挟んだ。

 エドワード殿下とカインが争う姿なんて見たくない。


「……ふん。小さなことで目くじらを立てていては、次期国王としての器が小さいと思われるかもしれぬしな。まあ、今回は大目に見てやる」


「へいへい。ありがとよ。にしても、イザベラ嬢は優しいなぁ。さすが俺の女神だぜ」


「女神だと? ふざけるな。イザベラは俺の妻になる女だ」


「だから、それはイザベラ嬢が自分で決めることだろ?」


「あの、えっと……」


 私は口論する二人に挟まれて困ってしまう。


「いいだろう! ちょうどイザベラもこの場にいるのだ。彼女に剣術を見せ、選んでもらうとしようではないか」


「そりゃ、望むところだぜ。それでこそ、決闘って感じだしよ」


「ふっ。お前に負けるつもりはない」


「こっちのセリフだ」


 二人の視線が激しくぶつかり合う。


(また二人で試合をするのかしら?)


 そう言えば、去年も似たようなことがあったなぁ。

 あの時はオスカーもいて、三つ巴の戦いだった。

 今回はどんな結果になるのかな?

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